赤星は廻る | ナノ



02

 



「ノックくらいしたらどうだい?」

ラゴウの件をカロルから聞いた後、ユーリは街の外に設けられた騎士団の駐屯地を訪れた。そして一番奥の他より大きなテントの前まで歩みを進めれば、中から聞き慣れた声がかけられる。

「来るの、わかってたろ」

「ああ」

それにノックの振りをして返せば、今度は中から声だけでなくその主が出てきた。視界に現されたその姿に、ユーリは目を瞠る。
フレンだ。それに間違いはない。違うのは、彼の身を包む鎧だ。どちらかと言えば簡素なものだった以前とは違う、全身を覆うタイプの鎧。短い期間ながら騎士団に在籍したことのあるユーリもよく知っていた。そういった鎧を身につけることが許されるのは、団内でも限られた者だけだ。

「本日付けで隊長に就任した」

「フレン隊の誕生か。また差つけられたな」

それまで硬い表情を浮かべていたユーリの顔も、さすがに綻んだ。親友の昇進だ。嬉しくない筈がない。

「そう思うなら騎士団に戻ってくればいい。ユーリならきっと…」

フレンは言うが、ユーリがその先を制してしまう。オレの話はいい、と。

「隊長就任、おめでとさん」

「ありがとう」

そして暫し続く沈黙。先に口を開いたのはフレンのほうだった。

「僕を祝うために来たわけじゃないだろう?」

ユーリが頷く。そう、ラゴウの件を話しに来たのだ。
フレンは悔しげに顔を歪めると、手甲に包まれた右手を強く握り締める。そして語り出すのはラゴウの所業の数々。

「ノール港の私物化、バルボスと結託しての反逆行為。加えて街の人々からの略奪、気に入らないという理由だけで部下にさえ手をかけた」

「……」

「殺した人々は魔物の餌か、商品にして、死体を欲しがる人々に売り飛ばして金にした」

黙ってそれを聞いていたユーリも、ギリ、と歯を鳴らす。それだけのことをしておきながら、ラゴウは罪に問われないというのだ。それほどまでの力があるのか、評議会には。

「隊長に昇進して、少しは目的に近付いたつもりだった。だが、ラゴウ一人裁けないのが僕の現実だ」

だが終わったわけではない。彼の目標は、それを変えるため、更に上に行くことなのだ。それを告げれば、そうだ、とフレンの首が縦に振られる。

「だが、その間にも多くの人が苦しめられる。理不尽に……それを思うと…」

「短気起こしてラゴウを殴ったりすんなよ?出世が水の泡だ」

ユーリは一転して軽い口調で言うが、フレンはやはり悔しげに黙り込んでいる。

「お前はラゴウより上に行け。そして……」

「ああ。万人が等しく扱われる法秩序を築いてみせる。必ず」

「それでいい」

そしてふっと笑い、フレンに背を向けた。

「オレも……オレのやり方でやるさ」

訝しげに自分を呼ぶフレンに振り返らず、ユーリは歩き出した。しかし不意に足を止めると、また口を開く。

「法で裁けない悪党……お前なら、どう裁く」

「……まだ、僕にはわからない」

「そっか」

それだけ返して再び歩き出した背中を、フレンはただ黙って見つめていた。





オレも、オレのやり方で





 


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