54 レイヴンとアカが宣言もなく姿を眩ましたことにも、ユーリは対して動じず…というか慣れた様子だった。レイヴンはダングレストに戻ったのだろうし、会おうと思えば会えるだろう。アカもアカで、そのうちひょっこり顔を出す筈だ。心配なんぞする必要もない。 「浮かない顔して、どうかしましたか?」 と、魔核を取り返したにも関わらず晴れ晴れとしない表情のユーリにエステルが首を傾げた。 「いや、デデッキの野郎をぶん殴ってねぇと思ってさ」 デデッキといえば、シャイコス遺跡でその名を聞いた、下町の魔核を盗んだ張本人だ。リタの名を騙り、追い詰めたユーリとラピードから逃げた者。直接バルボスを追ってきたため、奴がどこにいるかはわからないが。 「魔核は戻ったんだからいいんじゃないの?そんなコソ泥なんて」 「ま、それもそうだな」 どっかで会ったら絶対にぶん殴るけど、と続けて、ユーリは不意に口を噤む。そして小さな声で呟いた。 「……地獄で待ってる、か。やなこと言うぜ」 幸い誰の耳にも届かなかったようで、返ってきた言葉はなかった。 その後ジュディスとも別れ、ユーリはエステルやカロルたちと共に、ダングレストへ戻るべくガスファロストを後にした。一連の事件は全て解決したーーそう信じて。 「嫌なこと言う男だね、あんたは」 ガスファロスト頂上、バルボスが落下した場所から下を見下ろすアカは、表情無く口を開いた。思い出すのは、ユーリへ向けられた、彼の最期の言葉。 ーー悔やみ、嘆き、絶望した貴様がやってくるのを…… 「地獄で待つ……ね」 アカの口の端が持ち上がる。脳裏に浮かぶあの瞬間。ユーリだけを見ていた筈のあの目が、最後の一瞬、自身を映したことにアカは気付いていた。 「あれ、うちに向けた言葉でもあったんだろう?まったく嫌な男だよ、あんた」 あくまでも笑みを浮かべて告げれば、腰に巻いた羽織を翻し、アカはそこに背を向ける。そして視線を上げると、冷たく光る銀目が映すのは男の姿。 「あんたもそう思うだろう?」 「……」 問いに、男ーーレイヴンは答えなかった。 「あんなに帰りたがってたあんたが、まだこんなとこにいるなんてね。聖核ってやつは見つかったのかい?……ああ、それとも別の用件で残ってたとか?」 「…そう踏み込むもんじゃない」 「わかってるよ。約束は守るさ」 そして少しも笑っていない笑顔でレイヴンに手を振り、アカは下に続く階段へと向かった。少し距離をあけて、その後にレイヴンも続く。塔を下りる間、二人の間に会話はなかった。 ーー悔やみ、嘆き…… 「うちは悔やまないし、嘆きもしない」 ーー絶望した貴様が…… 「絶望なんかしないさ。するわけがない……うちは、希望なんか抱いちゃいないんだから」 見上げた先は、夕暮れ色に染まった空。 ダングレストはすぐそこだった。 集う輝星 ×
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