52 「性懲りもなく、また来たか」 塔の頂上ではバルボスと、その手下たちが待ち構えていた。その姿を認めると、先頭に立つユーリの脇にアカが足を進める。 「分をわきまえぬバカ共が、カプワ・ノール、ダングレスト、ついにはガスファロストまで!忌々しい小僧共め!」 「諦めな。もう終わりだよ、あんた」 「ふん、まだ終わりではない。十年の歳月を費やしたこの大楼閣ガスファロストがあれば、ワシの野望は潰えぬ!あの男と帝国を利用して作り上げた、この魔導器があればな!」 (……あの男?) アカはバルボスの言葉に眉を上げながら、その手が魔核の埋め込まれた大剣を振るうのを見て、足場になっている巨大な歯車を蹴った。途端、アカがいた場所に衝撃波が飛び、爆発を起こす。 また別の歯車に着地すれば、仲間たちもそれに続いた。大剣型の魔導器を手にするバルボスに振り返り、下町の魔核をくだらねぇことに使いやがって、とユーリが舌を打つ。 「くだらなくなどないわ。これでホワイトホースを消し、ワシがギルドの頂点に立つ!ギルドの後は帝国だ!この力さえあれば、世界はワシのものになるのだ!」 上機嫌そうに笑いながら、バルボスは魔導器を振るった。無差別に放たれた衝撃波が頂上のあちこちで爆発を起こす。これはまずい、とその圧倒的な威力に誰もが冷や汗を流した時だ。 「伏せろ」 ユーリらの背後ーー上部にある歯車の上に、長い銀髪を揺らす男の姿があった。デュークだ。彼はケーブ・モックでした時と同じように赤い光を纏う剣を掲げる。すると反射的に彼の言葉に従ったユーリらの上を光の帯が奔り、バルボスが振りかざす大剣にまとわりつくと、剣は暴走を起こし半ばから真っ二つに折れてしまった。 「なにっ!?」 デュークはそれを見届けると、もう用はないとばかりに身を翻す。体を起こしたリタがそれを目で追うが、よそ見するな、とのユーリの言葉でバルボスに視線を戻した。 バルボスは砕けた魔導器を振るうが、もう衝撃波は生まれない。完全に壊れてしまっているようだ。 「くっ、貧弱な!」 形勢逆転だとユーリは笑う。しかしバルボスは悔しげな表情から一転、何かを悟ったように笑みを浮かべると大剣を抜いた。こちらはこれといった細工をされていない、彼愛用の武器だ。 「賢しい知恵と魔導器で得る力など紛い物にすぎん…か。所詮、最後に頼れるのは己の力のみだったな」 「あちゃ〜、力に酔ってた分、さっきまでのほうが扱いやすかったのに」 「開き直ったバカほど扱いにくいものはないわね」 剣を構えたバルボスの指示で、手下たちも武器を取りユーリたちを囲む。溜め息をつくレイヴンとリタに、アカは言った。 「なに、君らは雑魚を片してくれりゃいいよ」 「おりょ、アカらしくないのな。いつも表舞台は嫌がるくせに」 「たまにはね。ちぃとばかし、血が騒いでんのさ」 その視線は、ドン・ホワイトホースに並ぶ兵(つわもの)、剛嵐のバルボスと呼ばれた男へと注がれている。アカは双剣を抜くと、隣で同様に剣を構えた青年を見た。 「行けるかい、ユーリくん」 返す彼の顔は、笑っていた。 当然だろ ×
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