50 ガスファロストは古い要塞を土台に築き上げられた楼閣で、『紅の絆傭兵団』の本拠地になっている。 「はいっ、これで最後!」 リタのファイアボールが鳥型の魔物を撃ち落とす。二階の外壁部分でバルボスの手下や飼い慣らされた魔物を退けたところ、扉が開き、中からユーリが姿を現した。 「おっ、やってるな」 「ユーリ!」 真っ先に駆け寄るのはエステルだ。怪我はないかと親のように頬やら腕やらに触れる彼女に苦笑するユーリに、カロルやラピードらが続々と駆け寄った。 大人しくしてろって言ったのに、と呆れ顔の彼に心配だったからとカロルが返すと、自分は心配などしていないとリタが否定する。 「おっさんも心配で心配で」 「嘘つけ。っていうか、なんでおっさんまで来てんだよ」 「人使いの荒いアカちゃんに連れて来られたのよ」 そう言うと同時に膝裏に蹴りを食らったレイヴンががくんと崩れ、その背後から顔を出したアカがユーリの隣を見る。そこにいたのは長身の、青い髪を纏め上げたクリティア族の美女だ。豊満な身体を惜し気もなく露出した服装には、復活したレイヴンが鼻の下を伸ばして喜んでいる。 「無事で何よりだよ、ユーリくん。そっちは?」 「ああ、オレと一緒に捕まってたんだ」 「ジュディスよ」 「うちはアカって呼んどくれ」 笑みを浮かべて名乗った彼女に、アカをはじめ皆が自己紹介を始める。終始ハイテンションなレイヴンが鬱陶しい。 ユーリは水道魔導器の魔核をまだ奪還出来ていないらしく、バルボスを討つため上に進むことにした。ジュディスもついて来るらしい。では上に向かおう、という時にそれはきた。 上の階から飛び降りたのだろう、バルボスの手下らしき男の突然の出現に驚いたカロルが声を上げる。振り下ろされた剣をなんとか避けると、別の剣戟が男を弾き飛ばした。 「フレン!?」 それはあの若い騎士のものだった。剣をおさめた彼が振り返ると、何故騎士団小隊長ともあろう者が一人でこんなところにいるのだとユーリが呆れかえる。まったくその通りだ。 「ラゴウの身柄は部下が確保した。街の傭兵たちもユニオンが制圧した。あとはバルボスだけだ」 フレンはエステルに向き直り、危険だからユーリらと共にここにいるようにと告げる。一人でバルボスの元に向かおうと言うのだ。しかし彼女がそれを許す筈がない。 「一人で行くなんて危険です!わたしたちも一緒に行きます!」 「そんな、いけません!」 「待てよ、こっちもバルボスには色々と因縁があるんだ。ここまで来て止まる気はねぇ」 「それに、どのみちエステルは君を追っかけて行っちまうだろうよ」 ユーリとアカが言えば、フレンは暫し考え込んだ後、仕方なさそうにわかったと返す。 「なら一緒に行こう。時間もないし、そのほうがまだ安全だろう」 そうして話がまとまると、漸く上へと向かい始める。最後尾を歩くアカはふと立ち止まり、塔の最上部をじっと見つめていたが、足元に歩み寄ったラピードが見上げてくるのに気付くと苦笑してその頭を撫でた。 何でもないよ。何でも ×
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