48 「止まれーっ!双方刃を引け!引かないか!!」 馬に跨がった騎士が数千に達しているだろう両軍の間に走り入り、手にした書状を掲げた。ヨーデルに預けられた、本物の書状だ。 「私は騎士団のフレン・シーフォだ!ヨーデル殿下の記した書状をここに預かり参上した!帝国に伝えられた書状も逆臣の手によるものである!即刻、軍を退け!」 そして彼に歩み寄ったドンに受け渡されたのを見て、バルボスの顔が険しくなった。 「ラゴウ、帝国側の根回しをしくじりやがったな!」 「ひっ…」 バルコニー付近にいた男がバルボスの目配せに頷き、ライフル型の魔導器を外へ向ける。フレンを狙っているのだ。しかし、それを彼女は許さなかった。 「騎士くんは仕事を全うしたわけだ」 刃の形をした衝撃波が男を弾き飛ばし、銃が音を立てて床に落ちる。何、とバルボスが振り返るや否や、その懐に飛び込んだ影があった。 「なら、ここからはうちの仕事だ」 交差された両腕が振るう双剣は相手の服を掠り、体躯に似合わぬ俊敏さで後方に退いたバルボスは床に落ちた魔導器を拾う。アカは小さく舌打ちし、発射された火球を側転で避けた。 「アカ!」 「ありゃ厄介だ。君らは逃げな」 それに従ってエステルやリタたちは出口となる階段付近まで走る。剣を構えるアカの横にユーリが並ぶと、背後からリタの声が飛んだ。 「エアルを再充填するまで少し間がある筈よ!その隙を狙って…」 その言葉に頷き、バルボスが銃を下ろしたタイミングで二人同時に走り出した。しかし、 「遅いわぁ!」 「うそ!?エアルの充填が早い!」 相手の元に辿り着く間もなく、再充填を終えた銃口がアカたちを向いた。防御も回避も間に合わない。今の二人は格好の標的だろう。 だがその時、バルコニーから屋内へと飛び込むものがあった。それによって魔導器はバルボスの手から弾き飛ばされ、爆発と共に破壊される。 「なっ…なんだあっ!?」 「また出たわね!バカドラ!」 竜使いだ。その姿を認めるや否や、リタが術の詠唱を始める。敵を間違えるな、との声はユーリのものだ。 「あたしの敵はバカドラよ!」 「今はほっとけ!」 その隙にバルコニーまで駆けたバルボスが巨大な剣を構えた。その剣の根元に埋め込まれた魔核を見て、アカが微かに目を見開く。 「よかったねユーリくん、ありゃ君がお探しの水道魔導器の魔核だよ」 「!」 しかしバルボスはそのまま戦闘に入るのではなく、魔導器の力で風を巻き起こして宙に浮き、外へと飛んで行ってしまった。 「ワシの邪魔をしたこと、必ず後悔させてやるからな!」 との捨て台詞を残して。 竜がそれを追おうとすると、逃がさないと駆けるリタより先にユーリが走り寄った。そして自分も乗せてくれと頼んだのだ。何としてもバルボスを捕らえねばならないのだと。 竜使いは暫し考え込んでいたが、やがて竜をバルコニーに近付けた。助かる、と返したユーリは竜使いの背後に跨がる。自分たちもと近付くカロルだが、それより先に竜がバルコニーを離れた。どう見ても定員オーバーだ。 「お前らは留守番してろ!」 「そ、そんな!」 仲間たちを残し、ちょっと行ってくる、と告げたユーリを背に乗せ、竜は飛び去ってしまった。 さて、どうしたもんかね ×
|