46 地下水道を暫く歩いた頃、外に繋がっているのか明るい場所に出た。『紅の流星群』までの中間地点だとアカは言い、それを聞きながら辺りを見回したユーリの目にあるものが映る。 「なんかここに刻んであるな」 彼が指したのは壁だ。そこには文字が刻まれており、皆がその前に立ってその文字を追う。読み上げるのはエステルだ。 「……かつて我らの父祖は民を護る務めを忘れし国を捨て、自ら真の自由の護り手となった。これ即ちギルドの起こりである」 『しかし今や圧制者の鉄の鎖は再び我らの首に届くに至った。我らが父祖の誓いを忘れ、利を巡り互いの争いに明け暮れたからである。ゆえに我らは今一度ギルドの本義に立ち戻り、持てる力をひとつにせん』 読み進めるうちに、心当たりがあったらしいカロルが目を瞬いた。なおもエステルが続ける。 「我らの剣は自由のため。我らの盾は友のため。我らの命は皆のため。ここに古き誓いを新たにす」 「ねえ……これって『ユニオン誓約』じゃない?」 カロルの言葉にリタが首を傾げた。ユニオン誓約とは、ドン・ホワイトホースがユニオンを結成した時に作られた、ユニオンの標語のようなものだ。自分たちのことは帝国に頼らず自分たちで守る、そのためにはしっかり結束し、お互いのためなら命もかけよう、といったことらしい。 「でも、なんでこんなところに誓約が書かれてるの?」 「ユニオンってのは、帝国がこの街を占領した時に抵抗したギルド勢力が元になってんのさ。それまでギルドってのはてんでバラバラ、好き勝手やってて、問題が生じた時だけ団結してた。で、事が済めばまたバラバラ。帝国に占領されて、漸くそれじゃまずいって悟ったわけだ」 そしてそのギルド勢力を率いたのがドン・ホワイトホース。その際にこの地下水道も大いに役に立ったことだろう。 「じゃあ、その時ここで結成の誓いを立てたんだね」 「そういうことらしいね。確かに誓約書の実物がどこかにあるって話だったが、こんな壁の落書きだったとはねぇ」 「壁に書かれた誓約書なんて、なんか素敵ですね」 ふとエステルの目に入ったものがあった。それは誓いを立てた時に刻まれた署名で、その中に聞き覚えのある名が刻まれていたのだ。 「ここ……アイフリードって書いてあります」 「ああ、あの大悪党って噂の海賊王か」 「ドンの話じゃ、一応盟友だったらしいよ。頭の回る食えない人物で、あのドンですら相手すんのに苦労したってさ」 「それでも盟友とか言うあたり大した器のじいさんだな、ドンってのは」 まったくだ。頷くアカに振り返り、ユーリが先に進む道を指す。その後ろではカロルが壁の文字を見つめていた。 「面白いもんが見れたが、今はバルボスだ。そろそろ行こうぜ」 ああ、まったくその通りだ ×
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