赤星は廻る | ナノ



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「うわぁ……真っ暗です…」

アカがまずユーリたちを連れて向かったのは、『天を射る矢』経営の酒場、『天を射る重星』だった。もちろん飲み食いするのが目的ではない。この店にはアカ曰く、ドンが偉い客迎えて酒飲む部屋、がある。彼女がユーリらを案内したのはこの部屋だ。

「ダングレストの地下には複雑に地下水道が張り巡らされていてね、その昔……街が帝国に占領されたとき、ギルドはこの地下水道に潜伏して反撃の機会をうかがったんだと」

部屋の奥にある扉に入れば、あら不思議、そこは地下水道の入り口でした。

「で、ここからこっそりと連中の足元に忍び込めるって寸法さ」

「ちゃちゃっと忍び込んで奴らふん捕まえる。回り道だが、それが確実ってことか」

最近ではこの入り口はほとんど使われておらず、そもそも地下水道を使う機会自体がない。街の人間ですらその存在を知る者はほんの僅かだから、バルボスもまさか足元から攻めて来られるとは思わないだろう。

「それはいいけど、この暗さはなんとかならないの?」

「迷子になって永遠に出られねぇってのは勘弁だぜ」

「え?見えない?」

「見えないわよ!あんた、一体どんな目してんのよ!」

いや、確かに暗いがそれぞれの顔ぐらいは見えるのだが。しかしアカの言葉に賛同する者はいない。明かりもなければ日光も届かないこの地下では、彼らの目に映るものは暗闇以外何もないのだ。

「リタ、火の魔術でなんとかならないのか?」

「うーん……無理。火の魔術は攻撃用なのよ。照明みたいに持続させるには常時エアルが供給されないと。光照(ルクス)魔導器みたいにね」

ということは、照明のないこの状態では、アカ以外にまともに進める者はいないと。それではわざわざ彼らを連れて来た意味がない。

「しょうがないねぇ。はい、リタ」

「何?……これ…光照魔導器?」

腰に巻いた羽織から取り出しましたるはランプ型の魔導器。傍らにあった充填器でエアルを補充し、光るそれをリタの前に差し出してやれば、どこに持っていたんだとカロルの疑惑の目が刺さる。

「…こういうの持ってたんなら、さっさと出しなさいよ」

「はっはっは」

リタのジト見を笑ってスルーし、道の先へと足を向ける。地上の喧騒を逃れた地下は、水の流れるものの他に音はなく、五人と一匹の足音がやけに響いた。





さあ、進もうか





 


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