43 ダングレストに戻り、ユニオン本部の奥にあるドンの私室を訪ねてみると、そこにはドンの他にギルドメンバーらしき男たちの姿、そして見覚えのある、ユーリには見慣れた背中があった。 「フレン!」 「ユーリ…」 部下の騎士も連れず、たった一人でドンと向かい合うのはフレンだった。彼は振り返ると、ユーリたちの姿に意外そうな顔をした。知り合いだったのかという問いに古い友人だとフレンが返せば、ドンは面白そうにほうと呟いて顎を撫でる。 ユーリはフレンの横で足を止め、その脇を通ってレイヴンがドンの傍らへと足を進める。アカはどちらにも寄り添わず、ちょうど中間辺りの壁に背を預けた。 「で、用件はなんだ?」 「いや…」 「オレらは『紅の絆傭兵団』のバルボスってやつの話を聞きにきたんだよ。魔核ドロボウの一件、裏にいるのはやつみたいなんでな」 ユーリが言うと、フレンは考え込むような仕草をしながら、なるほどと頷いた。どうやら彼もバルボス絡みでユニオンを訪ねたらしい。 「ユニオンと『紅の絆傭兵団』の盟約破棄のお願いに参りました」 バルボスを始め、『紅の絆傭兵団』は各地で魔導器を悪用し、社会を混乱させている。騎士団としてはそれを許せないのだろう、ユニオンが協力するのなら共に打倒を果たしたいとフレンは述べた。 「……なるほど、バルボスか。どうだ、アカ。おめぇから見て」 「ったく、なんでうちに振るんだい。…そうだね、確かに奴の行動は少ーし目に余る。ギルドとしちゃ、けじめはつけるべきかね」 ドンの抑止力のおかげで、昨今の帝国とギルドの武力闘争はおさまっている。が、バルボスをこのまま野放しにすれば、両者の関係に再び亀裂が生じるかもしれない。それはユニオンにとっても面白くない。 「バルボスは、今止めるべきです」 「協力ってからには俺らと帝国の立場は対等だよな?」 それにフレンが頷けば、ドンは機嫌良さそうに共同戦線を受け入れた。 「ここは手を結んで事を運んだほうが得策だ。おいっ、アカ。ベリウスにも連絡しておけ。いざとなったらノードポリカにも協力してもらうってな」 「えー、なんでうちなの。めんどい」 「おめぇがやったほうが早ぇんだ」 「はいはい、後でね」 そしてフレンが、ヨーデルから預かったという書状を差し出す。それを受け取ったドンが紙面に目を通すと、ニヤリと笑い、読んで聞かせてやれ、とそれをレイヴンに渡した。彼はそこに書かれた文に一瞬眉を寄せ、それから声に出して読み始める。 「『ドン・ホワイトホースの首を差し出せば、バルボスの件に関しユニオンの責任は不問とす』」 「何ですって……!?」 書状に書かれていたのは、フレンが思っていたものとはかけ離れたものだった。ドンが声を上げて笑う。もちろんレイヴンが嘘の文を読んだわけでもなく、証明するようにフレンに渡された書状には、今読まれたままの文が書かれていた。 「どうやら、騎士殿と殿下のお考えは天と地ほど違うようだな」 「これは何かの間違いです!ヨーデル殿下がそのようなことを」 「おい、お客人を特別室にご案内しろ!」 「ドン・ホワイトホース、聞いてください!これは何者かの罠です!」 フレンの言葉は聞き入れられず、屈強な男たちに囲まれた彼は別室ーー牢へと連れられて行ってしまった。エステルが止めに入ろうとするが、ユーリがそれを制す。下手に動けば、余計彼を危険にさらすことになるのだ。 「帝国との全面戦争だ!総力を挙げて、帝都に攻めのぼる!客人は見せしめに、奴らの目の前で八つ裂きだ!二度となめた口きかせるな!!」 そう声を上げたドンは、レイヴンや部下たちを連れ、ユーリらの前を通って部屋を出て行ってしまう。溜め息を吐いたアカが、その後に続いた。 「た、大変なことになっちゃった!」 「おかげであたしらの用件、忘れられちゃったわよ」 「ドンも話どころじゃねぇな」 エステルは、帝都に戻り本当のことを確かめると言うが、これもやはりユーリが止める。とりあえずは様子を見ることにし、ユニオン本部を出た。 フレンが危ない! ×
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