40 ドンの視線の先にある木の陰から姿を現したのはレイヴンだ。舌打ちしてからドンのそばへと歩み寄っていった彼に、カロルが目を瞬かせる。 「うちのもんが他人様のとこで迷惑かけてんじゃあるめぇな」 「迷惑ってなによ?ここの魔物大人しくさせんのに頑張ったのよ、主に俺様が!」 「えっ、レイヴンってまさか『天を射る矢(アルトスク)』の一員なの!?」 カロルの声にアカが頷く。意外な事実に、彼だけでなくエステルやリタも、信じられないと言いたげな顔でレイヴンを見た。ただの胡散臭いおっさんじゃなかったのか。ユーリも意外そうに彼を眺めたが、特に追求することはなくドンへと向き直る。 「ドン・ホワイトホース。会ったばっかで失礼だけど、折り入って話がある」 「……若ぇの、名前は」 「ユーリだ。ユーリ・ローウェル」 自身に真っ直ぐ目を向けてくる青年を、ドンはまるで品定めでもするかのように眺め、その様子にレイヴンとアカは嫌な予感を抱かずにはいられなかった。ドンはどこか楽しげな顔をしており、彼らは予感が予感で終わってくれないことを知る。 「話は聞いてやる。その代わり、面ぁ貸せ」 「ちょっとじいさん、まさか…」 慌てるレイヴンにカロルらは首を傾げ、どういうことだと尋ねた。それに答えるのはアカだ。 「ドンの悪い癖だね。試したくなんのさ」 「試すって、何を?」 「腕。骨のありそうな若いのを見つけるといつもそうさ」 やれやれ。溜め息をつきつつ少年から視線を戻せば、ドンの正面に立つ青年の顔に笑みが浮かんだ。さすがユーリ、売られた喧嘩は悉く買うのか。 ギルドユニオンのトップと剣を交える機会などそう無いから、とユーリは楽しそうに笑って剣を抜く。しかしこの場で繰り広げられるであろう戦闘を本気で嫌がっているレイヴンに、舌打ちしたドンは妥協案を出した。自ら相手をすることはしない、だがユーリの腕は見る。そこにこだわる必要はあるのか、と完全に他人事だったアカの名が呼ばれた。 「おめぇ、こいつと戦え」 「…………は?」 これにはその場にいた全員が目を丸くした。アカは自身の耳を、と言うよりは相手のボケの開始を疑った。何を言い出すんだ、このジジィは。 「なんでうちが」 「ユーリっていったか、おめぇはどうだ?」 「…ま、オレは構わねぇよ」 「いや聞きんさいよジジィ」 このじいさんは言い出したら聞かないのだ。これは言う通りにするしかないのだろう、といつの間にか姿を消しているレイヴンを恨めしく思いながら双剣を抜いた(本来ならドンの部下である彼がやるべきことだろうに)。 「手短に終わらせとくれよ」 「そりゃお前次第だろ」 「……んじゃ、手抜いていいんかね」 「決まってんだろ」 それでも結局、ユーリは楽しげに笑うのだ。 本気で来いよ ×
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