38 金属のように硬い皮膚に苦戦はしたが、なんとかギガラルヴァを倒した。だがその直後、同じ種類の魔物がユーリたちを囲むように木の上から落ちてきたのだ。一体を倒すのですら容易ではなかったというのに、それが何体もこちらに攻撃を仕掛けようとしている。 「あーあ、やっぱ一体しかいないうちに逃げりゃよかった」 「おいおい、オレたち見捨ててか?」 「あったりまえさ。君らが尊い犠牲になってくれりゃ、一つの命が助かったんだよ」 「一人のために他の全員死ねってか」 ギガラルヴァが群れで行動するのを知っていたアカは心底後悔した。判断を誤らなければ、こうして命の危機に頻することもなかったというのに。 絶体絶命のピンチ。逃げ場はなく、立ち向かうだけの人手もなければ、状況打開の手段もない。じりじりと迫ってくる魔物たちに皆が冷や汗を流し、輪の中心へと後退る。ユーリとレイヴンの背が当たった。 「ああ、ここで死んじまうのか。さよなら、世界中の俺のファン」 「世界一の軽薄男、ここに眠るって墓に彫っといてやるからな」 「そんなこと言わないで一緒に生き残ろうぜ、とか言えないの!?」 「ほれレイヴン、こんな時こそあんたの出番だろう」 「出番って?」 「囮」 「いやです!!」 その時、木の上から飛び降りた人影があった。長い銀髪を揺らす長身の男は、魔物の輪の中に立つと右手に持った剣を掲げる。その瞬間に生まれた力の奔流が、男を中心にして周囲に広がった。 それは一瞬と言える時間だっただろう。剣を下ろした男が表情を変えず見ていた場所に、魔物の姿はもうない。ユーリたちを囲んでいた魔物はみな消えていた。リタが大木の根元に振り返ると、そこに見えていたエアルは既に落ち着いたようだった。ほっと息をつくものの、一つ疑問が。 「……誰?」 赤色に淡く光っている剣を握り、銀髪の男はユーリたちのほうに振り返ることなく辺りの様子を窺っている。助かったのは助かったが、この人物は一体何故こんなところに?っていうか何者? 「デューク…」 皆が首を捻る中、レイヴンがそう呟いた。どうやら彼はその男を知っているらしい。つまり男の名はデュークというのだろう。 レイヴンの声は聞こえただろうに、男は何も答えないまま立ち去ろうとした。待って、とそれを止めたのはリタだ。 「その剣は何?見せて!」 リタの目では、彼の持つ剣がエアルの暴走をおさめたように見えたのだ。しかし、どうやって?先程のあの力はなんだったのか。問うが、デュークは答えようとはしなかった。お前たちには関係ないと言われ、リタは口を噤む。 何にしても助けられたことには変わらないのだ。エステルがその前に立ち礼を言うと、デュークは彼女をじっと見つめてから、淡々と言った。 「エアルクレーネには近付くな」 何ですか、それ? ×
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