赤星は廻る | ナノ



35

 



ギルドユニオンの大首領であるドン・ホワイトホースの登場に、魔物を迎え撃っていたギルド員たちの士気が高まる。とはいっても、街に攻め込む魔物にきりがなくては、彼らの気力と体力ももつわけがない。ならば結界を直せばいいのだと、リタに案内を命じられたカロルの後に続き、結界魔導器の元へと急いだ。

「それにしても、この街に騎士様が来るとはね」

驚いたのは、ユーリがドンの姿を認めた直後、騎士たちを従えるフレンが現れたことだ。基本的にユニオンと帝国は不仲なため、この街に騎士団が訪れることは無い。何らかの任務のためではあるだろうが。
フレンは魔物の討伐に協力するつもりで剣を抜いたが、ドンがこれを突っぱねた。ギルドは自らの意思で帝国の市民権を捨て、保護を受けないかわりに自由を得た者たちの組織だ。有事だからと帝国の力を借りては、自分たちのメンツが立たない。

『そいつがてめえで決めたルールだ!てめえで守らねぇで誰が守る!』

「何があっても筋は曲げねぇ……なるほど、あれが本物のギルドか」

フレンは了承し難い様子だったが、ドンも一歩も譲ろうとはしなかった。何か思うところがあったらしいユーリは、暫くその背中を見つめていた。

「おや、ユーリくんもドンに惚れちまったかい?」

「さてな」

この街の主要な酒場が並ぶ通りの最奥に、結界魔導器は設置してある。その前には警備の者が倒れており、エステルが駆け寄るが、彼らは既に絶命していた。顔を伏せる彼女の脇を通り抜けたリタが階段を駆け上がり、制御盤の前に立ってパネルに指を走らせる。しかし。

「結界は直させんぞ」

そこに数人の影が現れた。暗い色のコートに両手の武器、そして赤いレンズの光るゴーグル。ユーリがノール港で戦った者たちと同じ出で立ちの、赤眼だ。なるほど、結界が消えたのはこいつらの仕業か。作業を続けるリタのそばにエステルとカロルが立ち、ラピードやアカと共にユーリは襲いかかってきた赤眼に応戦した。

打ち倒した彼らのそばに立ち、警戒しながらリタの作業が終わるのを待っていると、金髪の騎士が駆けてくるのが見えた。彼はユーリの前で立ち止まるや否や、倒れた赤眼を捕らえるよう部下に命じる。

「ドンの説得はもう諦めたのか?」

「今はやれることをやるだけだ。それで、結界魔導器の修復は?」

「天才魔導士様次第ってやつだ」

フレンの問いに返しながら、ユーリは階段の上に目を向ける。パネルを叩くリタの手は止まることなく、まるで楽器の演奏でもしているかのようだ。じきに修復も終わるだろう、とユーリはフレンに視線を戻す。

「魔物の襲撃と結界の消失、同時だったのは偶然じゃないよな?」

「おそらくは」

「偶然だったら本気で拝み屋行ったほうがいいよ、ユーリくん」

「だな。……フレン、お前がいるってことは、これも帝国のごたごたに関係ありってわけか」

「わからない。だから確かめに来た」

話しているうちに、リタの作業は終わりを迎えたらしい。彼女の指がパネルを離れると同時に沈黙していた結界魔導器が動き出し、頭上に街を覆う光輪が蘇った。





さすがリタ!





 


……………………

index



×