34 ダングレストの結界は丈夫で、少なくともカロルの知る限りでは破られたことは無い。しかし、街を覆うように空に浮かんでいた結界魔導器の光輪が消えてしまっては、そんなことを言っている暇などなかった。 「行く先々で厄介事に巻き込まれて…ユーリくん、やっぱなんか憑いてんだよ」 「かもな。そのうち拝み屋にでも頼んでみるか」 急いで来た道を戻ってみれば、街の中に入ってきた魔物の大群とギルド員たちが戦闘を繰り広げている。彼らはまだいいが、武器を持たない人々は襲われてもろくな抵抗が出来ない。ユーリたちはすぐさま武器をとり、街にあふれる魔物に向かい合った。 「この魔物、なんか様子がおかしいな…」 蹴りを織り混ぜた連続斬りで周囲の敵を一掃したユーリの言葉に、甲虫型の魔物を大きく斬り上げながらアカが同意する。この辺りに出現する魔物は何度も相手をしたことがあるが、こんなに凶暴ではなかった筈だ。その差は歴然で、この街に初めて来たユーリですら異変に気付くほどである。 「多分エアルを過剰に摂取してんだね。魔物の凶暴化って、大体それが原因だから」 「へぇ」 「ちょっとそこ!喋ってる暇あるなら戦いなさいよ!」 リタの激励に苦笑を返しつつ、新たな相手に向け走り出す。反対にアカは動きを止め、双剣を交差させて意識を集中し始めた。魔術の詠唱だ。察したユーリは彼女に向かおうとする魔物の足止めをする。アカが魔術を使うのが意外だったのだろう、リタとエステルが驚いた顔で彼女を見た。 短い詠唱を終えたアカは左手の剣を持ち上げる。ユーリが鋭い突きで敵を仰け反らせ、しかし追撃には移らずバックステップで退いた。 「ストーンブラスト!」 アカの声を合図にして、三体いた魔物のそれぞれの足元からいくつもの石礫が噴出する。直撃を受けた魔物は倒れ、そしてその身は四散した。更に驚いた様子でリタとエステルは固まっているが、街を襲う魔物はまだまだいるのだ。休んでいる暇はない。 言っているそばから襲われそうになっている街人が見えた。逃げる人々を追うサイの魔物にユーリが蒼破刃を飛ばすが、間に合わない。肝を冷やしたその時、大きな影が彼の視界に割って入った。 「さあクソ野郎ども、いくらでもこい!この老いぼれが胸貸してやる!」 何体もの魔物が弾かれるようにして倒れ、消え去ると同時に野太い声が響く。白い長髪を揺らした大柄な老人が、長い刀を片手に立っていた。 呆気にとられたように立ち尽くすユーリに、横に並んだアカが巨漢を眺めて口を開く。 「ドンのお出ましだ」 「……へぇ、あのじじいがね」 ありゃ確かに大物だ ×
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