33 トルビキア大陸北部、ヘリオードの西にあるダングレストは、帝都に次ぐ第二の都市で、ギルドによって統治されている街だ。ここはカロルの生まれ育った場所でもある。 「さて、バルボスのことはどっから手つけようか」 街の入り口にあたる橋を渡り、街の中心まで歩いてから辺りを見渡しながらユーリが言い、それにカロルはユニオンに顔を出すのが早くて確実だと返す。ユニオンとはギルドを束ねる集合組織であり、五大ギルドによって運営されている。更にこの街の自治も、ユニオンが取り仕切ってるのだ。 「でも、いいわけ?バルボスの『紅の絆傭兵団』って五大ギルドの一つでしょ?」 「ってことは、バルボスに手出したら、ユニオンも敵に回るな」 「……それは、ドンに聞いてみないとなんとも」 「そのドンってのが、ユニオンの親玉なんだな?」 五大ギルドの元首『天を射る矢(アルトスク)』を束ねるのがドン・ホワイトホース。ユニオンの…というかダングレストを拠点とするギルドの大首領である。 「んじゃ、そのドンに会うか」 「ちょっとそんなに簡単に会うって…ボクはあんまり…」 何故か街の奥に進みたがらないカロルが俯いて、その様子にユーリたちは首を傾げる。そういえばヘリオードにいた時も、ギルドのためと言わなければダングレストには向かいたがらなかった。彼らの疑問を察してアカが答えようとした、が。 「あ?そこにいるのはカロルじゃねぇか」 「どのツラ下げて戻ってきたんだ?」 「な、なんだよ!」 「おやぁ?ナンの姿が見えないな。ついに見放されちゃったか!」 傭兵風の男が二人、カロルに絡んできたのだ。なるほど、これがあるから嫌がっていたのか。ユーリたちは納得するが、男たちは少年をからかうばかりで去ろうとはしない。 「あんたらがこいつ拾った新しいギルドの人?相手は選んだほうがいいぜ」 男たちはユーリらに目を向け、カロルは今までに所属したギルドの数くらいしか自慢できない、と笑う。そして、ああそんなことは自慢にはならないかと更に大きな笑い声を上げた。カロルは言い返せず俯いていたが、その後ろで話を聞いていたユーリが口を開いた。 「カロルの友達か?相手は選んだほうがいいぜ」 続けてエステル、リタが言う。 「あなた方の品位を疑います!」 「あんた言うわね。でも同感」 言われ様にさすがに頭にきたらしい男たちが前に足を踏み出す。殴り合いでも始まってしまいそうな様子にアカが溜め息をつき、ユーリらと男たちの間に歩み出た。 「!お前…」 「アカじゃねぇか!」 「その辺にしときな。こんなとこで騒ぎ起こしちゃ、ユニオンが黙っちゃいないだろう」 「くっ…」 男たちの顔が歪み、退くか否かの判断をしようとしている時だ。突然、街中に警鐘の音が鳴り響いた。 「!!」 「ちっ、またか…!」 「警鐘……魔物が来たんだ」 次いで地響きのような音が聞こえて、男たち二人も走り出す。街中が騒がしくなってきた。 しかしまあ、ギルドの者たちが討伐に向かったようだから自分たちが動く必要はないだろう。そう思っていられたのは、頭上の結界が消えるまでの僅かな間だけだった。 なんでこんな時に結界が!? ×
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