32 「君は帝国直属の魔導器研究所の研究員だ。我々からの仕事を請け負うのは君たちの義務だ」 任務を拒むリタに返すアレクセイの言葉はもっともだ。しかし彼女はそれに頷かず、睨むようにして男を見る。先のリタの発言に目を丸くしていたエステルが、慌てた様子でアレクセイの前に立った。 「あ、え、えっと…それじゃあ、わたしがその森に一緒に行けば問題ないですよね」 「姫様、あまり無理をおっしゃらないでいただきたい」 当然、アレクセイがそれを許すわけがない。しかしエステルは食い下がる。ぐいぐいぐいぐい食い下がる。 「エアルが関係しているのなら、わたしの治癒術も役に立つはずです。お願いです、アレクセイ!わたしにも手伝わせてください」 「しかし、危険な大森林に姫様を行かせるわけには」 「それなら……」 彼女の目が、そのやり取りを見守っていた青年に向けられる。 「ユーリ、一緒に行きませんか?」 「は?オレが?」 「ユーリが一緒なら、かまいませんよね?」 なんという強引さだ。ユーリが是非を言う前に、姫君は騎士団長を説き伏せようとしている。リタもカロルも口を挟む隙が無い。 「青年、姫様の護衛をお願いする。一度は騎士団の門を叩いた君を見込んでの頼みだ」 暫し黙り込んでいたアレクセイが、とうとう折れた。彼の言葉にユーリはやれやれと溜め息をつく。結局こうなるのか。 「……なんでもかんでも勝手に見込んで押し付けやがって」 「その返答は承諾と受け取ってもかまわないようだな」 「ただし、オレにも用事がある。森に行くのはダングレストの後だ」 「致し方あるまい」 ではダングレスト経由でケーブ・モック大森林に向かおう。エステルが一礼して、アレクセイに背を向けた青年たちの後を追う。街の外へと歩き出した彼らを見送りながら、アレクセイは言った。 「君にやってもらう仕事が出来た」 その声に応じるように結界魔導器の裏から姿を現したのは、あの橙のサーコートを身につけた騎士だった。 「あ!アカ!」 街を出て数分、街道脇の木に背を預けて座っている人物の名を、カロルが呼ぶ。彼らを待っていたのだろう、その姿を見つけたアカがゆっくりとした動作で立ち上がった。 「どこ行ってたんだよ!探しちゃったよ」 「悪かったって。騎士様に会うの苦手なんよ、緊張しちゃうから」 「(嘘くせぇ)」 だから街の外で待っていたのだ、という彼女の言葉にひとまず納得して、次の目的地を告げる。 「ダングレスト?」 「ああ。『紅の絆傭兵団』の足取り、途絶えちまったからな」 「あと、ギルド作りの参考にするためにね!」 「なに、君らギルド作んの?」 嬉しそうにカロルが頷き、ユーリが肩を竦めた。どうやらリタが倒れた時、部屋の外でそんな話をしていたらしい。すっかりその気のカロルの頭を撫でるユーリに意味深な笑みを向けると、彼はうるさがって顔を背けてしまった。 いざ、ダングレストへ! SKIT ┗エステルって ×
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