31 「なんだ!?」 「アイツ…!」 そこに突如現れたのはあの竜使いだ。バカドラ、と叫ぶリタをエステルが庇い、更にその前に剣を構えたユーリとアカが立つ。全身を鎧で覆った竜使いは槍を構え、投擲の体勢に入る。しかし槍は突き出されることも投げられることも無く、その人物はどこか戸惑った様子で首を傾げた。 動いたのは竜のほうだ。ラゴウの屋敷やカルボクラムでしたように、口から炎を吐き出す。球状になって向かってくるそれにユーリが舌打ちし、剣を左下から右上へ掬い上げるようにして振るった。合わせてアカが交差させた双剣を振り、生まれた双刃の衝撃波がユーリの蒼破刃と共に火球に当たり、竜使いとの間で爆発を起こす。 剣を前に構えて衝撃と爆風を凌いでから顔を上げると、竜は身を翻して飛び去ってしまった。 「何かあったの?今すごい音が…」 騒々しく入ってきたカロルが、飛び去る寸前だった竜を見て悲鳴を上げる。 「え、な、何…」 「竜使いに襲撃された。理由もろもろは聞かないどくれよ、うちらにもわからんから」 静けさが戻った室内で、立ち上がりつつリタが愚痴を言う。大事な話の途中だったというのに、余計な邪魔が入った。まあ、大体わかったからまた改めて問い詰めるつもりはないが。 先のことを思い出して、エステルが俯いた。しかしユーリはいつものように人をからかうような声で言う。 「なに、悪いようにしないって。オレ、そんなに悪いやつに見える?」 「見えるわ」 即答したのはリタだ。それにエステルが笑い、置いてきぼりにされたカロルが騒ぐ。アカはそんな彼らを、ラピードの背を撫でながら穏やかに見守った。 翌朝、エステルを騎士団に届けるために街の中を歩いていたが、フレンの姿が見当たらない。 「アカもいないね。宿屋にいなかったから、てっきり外で待ってるかと思ったのに」 「そのうちひょっこり顔出すだろ、あいつのことだし」 正常に動いている結界魔導器のそばで一休みしていると、そこに一人の騎士がやってきた。フレンではない。秘書官であるクロームを連れた、アレクセイだ。 彼の話では、フレンは別の任務のために既に出発したのだそうだ。そして彼は、リタに任務を言い渡した。魔導器の暴走についての調査をしてほしい、とのことらしいが。 「ああ、あの子調べるのはもう無理」 すぐそこにある結界魔導器は今朝調べたが、異常は見られなかった。そう言えば、アレクセイは首を振る。この魔導器ではなく、ケーブ・モック大森林の調査に向かえと言うのだ。その名に覚えがあるのか、カロルが言った。 「ケーブ・モック大森林か…暴走に巻き込まれた植物の感じ、あの森にそっくりだったかも」 最近、森の木々に異常や魔物の大量発生、凶暴化が報告されている。一応帝都に使者を送ったのだが、優秀な魔導士の派遣にはまだまだ時間を要する。そのため、天才魔導士のリタ・モルディオに調査を依頼したいというわけだ。 「あたしの専門は魔導器。植物は管轄外なんだけど?」 「エアル関連で言えば、管轄外でもない筈だ」 「……それに、あたしは…エステルが戻るのなら、一緒に帝都に行きたい」 ……………え? ×
|