30 ベッドの上で体を起こしたリタは、周囲を見回してここが宿屋の一室であることを知ると、ベッドサイドに座った少女がこちらに突っ伏しているのに気付いて目を丸くする。 「あ、起きたね」 「……アカ」 扉脇のソファーに腰掛けていたアカがこちらを見て微笑んだ。その足元ではラピードが身を丸くして眠っている。主人はこの部屋にはいないらしい。 「エステルがずっと治癒術かけてたんだよ。大きめのやつ」 「……みたいね」 「具合はどうだい?」 「平気」 「そりゃよかった」 扉のほうからノック音が響き、リタが応じると開いた扉からユーリが姿を現す。 「目ぇ覚めたか。よかったな」 そしてベッドに突っ伏して眠るエステルを見下ろし、やれやれと溜め息をついた。彼女自身も爆発に巻き込まれて消耗しているというのに、リタの容体が落ち着くまでずっと治癒術をかけ続けていたのだ。疲れて眠ってしまうのも無理はない。だから先程、自分がかわりに見ているから休めと言ったのに(拒まれるのは予想していたが)。 「ったく……無茶するよ、ホント」 「まったくよね」 「他人事にすんな。お前もだ」 「それを言うならユーリくんもだけどね」 ふいと顔を背けるリタ、何のことだとしれっと返すユーリを眺めて、アカがにやりと笑む。と、エステルがふにゅうだとか何だか可愛らしい声を溢した。夢でも見ているのだろうか、幸せそうな寝顔にリタが呆れたように笑う。 「…ねぇ。エステリーゼって…あたしのこと、どう思ってると思う?」 そんな問いが彼女の口から発せられて、ユーリとアカはぎょっとした。それにすぐに気付いたリタがなんて顔をしているんだと睨んできたので、二人は頬をかきつつ苦笑する。いや、まさか彼女がそんなことを気にしているとは思わなかったのだ。 もういい、と些か拗ねたように言うが、何食わぬ顔でユーリが返す。エステルは術式なんぞより難しくないと。それにリタが俯くと、ちょうどエステルが目を覚ました。リタが起きていることに気付いた彼女は、治ったと思った時が危ないのだとすぐさま治癒術をかける。光の帯が体を包む感覚に目を伏せたリタは、その後穏やかに笑ってエステルを見た。 「もう大丈夫よ。それと」 魔導器使うフリ、もうやめていいよ。 「……え」 彼女のその言葉に、エステルは固まった。強張った顔で、漸く返す。何のことだ、と。 「魔導器無しで治癒術使えるなんて、すげーよな」 その背後で、今度はユーリが言った。エステルは肩を揺らし、俯いて黙り込む。その様子を問い詰めるでもなくリタとユーリは眺めていたが、突然アカが立ち上がったことで彼女に振り返り、その視線の先である開け放たれた窓の外を見た。 またアイツか! ×
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