赤星は廻る | ナノ



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それは突然のことだった。爆発音が街中に響き、地震に似た揺れに襲われる。暫しの間続いた震動が弱まると、アカは宿屋を出て街の中央部を見た。広場になっているそこには、この街の結界魔導器が設置されている。

「魔導器が……エアルの暴走か…!!」

激しく震動する結界魔導器が、大量のエアルを溢れさせているのだ。その影響で街路樹は異常な成長を見せ膨張していき、周囲の人々は体調不良を起こして次々に倒れていく。魔導器から離れた場所にいるアカですら、身体に不調を感じ始めていた。

(こりゃマズイな……あの魔導器、爆発でもしそうだ)

逃げ惑う人々に紛れて一時街を離れるか。迷うアカの視界、結界魔導器の向こうに、必死な形相のリタの姿が飛び込んできた。異常を察して騎士団本部から飛び出してきたのだろう。その後ろから走ってきたユーリが止めるのも構わず、リタは魔導器に駆け寄ると制御盤のパネルを開き、それに指を走らせた。

「大丈夫、エアルの量を調整すればすぐに落ち着くから。元通りになるからね!」

彼女の言葉はどうやら魔導器に向けられているらしい。ユーリやフレンがリタをそこから離そうとしているが、暴走したエアルに妨げられて近付くことも出来ないようだ。

「……そんな!この子の容量を超えたエアルが流れ込んでる。このままじゃ、エアルが街を飲み込むか、下手すりゃ爆発……」

愕然とした彼女の呟きを聞いた住民たちが、更に慌てた様子で街の外へと逃げ出す。彼らの誘導や、倒れた者たちをその場から離すので騎士団も手一杯のようだ。

「リタ!!」

聞き覚えのある声に騎士団本部のほうへ目を向ければ、そこから出てきたエステルが駆けてくるのが見えた。エステルは周りを構わずリタの元へと走り、彼女を目で追ったユーリらを驚かせた。もちろん、アカも。
制御盤の操作をするリタのそばで足を止めた彼女は、何故か眩いばかりの金色の光を放っている。それはハルルで樹を復活させた時にも似ていて、どうしてかエアルの暴走が弱まったように見えた。

「よしっ、できた!……きゃあああああっ!!」

突然起きた爆発がリタを吹き飛ばし、成長した街路樹に激突した彼女は倒れたまま動かない。同じように衝撃を受けたエステルは、リタを見つけるなり這うようにして近寄り、大規模な治癒術を展開させた。発動した術が光となって少女の体に吸い込まれると、肩で息をしながらエステルが言う。

「リタを休ませる部屋を…準備してください…」

「何言ってやがる…お前もぼろぼろじゃねぇか…!」

ユーリとフレンが駆け寄り、彼女らを運んでいくのを見送りながら、アカは結界魔導器のほうに足を向けた。そして広場の隅に座り込んでいたカロルを立たせると、彼らを追って宿屋に走る。
リタの処置のおかげで魔導器の暴走はおさまったようで、もうエアルを吐き出すことはなく静まり返っている。いつの間にか降り出した雨に、アカは溜め息をつかずにいられなかった。





合流して早々、こんな騒動とは





 


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