赤星は廻る | ナノ



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アカと合流したユーリは、宿屋に向かう途中で見かけた二人に声をかけた。ヨーデルとフレンだ。

「なんだ、ご両人。やっぱ居たのかよ」

「ユーリ、殿下に対して口の利き方が失礼だ。せっかく御厚意で君の罪を全部白紙にしてくださったというのに」

「いいんですよ、フレン。私とエステリーゼで勝手にやったことですから」

態度を改善するどころか礼を言うことすらしないユーリに、ヨーデルは気を悪くするでもなく微笑みを浮かべてフレンを宥める。なんて出来た人。同じ上流階級の人間でも、どこぞの貴族とはえらい違いだ。エステルしかり、育ちが良すぎるとこうなるのだろうか。

「エステリーゼ様のことはもう聞いたみたいだな」

「ああ」

「エステルのことって、帝国の姫さんだって話?」

「なんだ、やっぱお前も気付いてたのか」

「まーね」

エステルは前皇帝の遠縁ではあるが、確かに皇族なのだそうだ。ヨーデルを次の皇帝にと推している騎士団に対し、彼女は評議会の後ろ楯を受けている。どちらが皇帝になるか、というのが現在帝国のお偉方が問題にしていることらしい。
さらりと話してしまうヨーデルをフレンは諌めようとするが、ここまで知られて隠せることではないと返され口を噤む。今は皇族の問題を公にするべきではないと先に聞いていたし、ユーリやアカも情報を洩らす気は無いのでフレンが心配することは何もないのだが。

その後二人と別れて宿屋に向かったものの、エステルはもう休んでいるからと護衛の騎士に追い返されたので、ユーリらも今日は休むことにした。港での件からカルボクラムでのこと、取り調べやら何やかんやで疲れた。

翌日、宿屋の一階に下りた彼らは、何やら妙な音が外から聞こえるのに気付いて首を傾げる。フロントの者が言うには、どうやら結界魔導器の調子が悪いらしい。それを聞いた途端リタが駆け出すが、ちょっと待てとユーリが止めた。今この街には騎士団の隊長格が数人、加えて騎士団長までいるのだ。もう手配はしているだろう。

「リタが勝手すると、またエフミドの丘の時みたいになっちゃうじゃん」

「フレンに会った時に言ってやるぐらいでいいだろ」

「それじゃ、エステルに会いに行こうよ!」

「あー、じゃあ騎士団の本部に行くんだよね?うち、ここで待ってていい?」

アカの訴えに、リタとカロルが首を傾げる。ユーリも不思議そうな顔をしたが、彼女の苦笑を見るとしかたねぇなと了承した。
そしてアカを除いたメンバーで騎士団本部に赴けば、そこにはフレンと共にエステルの姿があった。

「なあ、なんか結界魔導器が変な音出してるけど、平気か?」

挨拶もそこそこにユーリが切り出せば、そのためにわざわざ顔を出したのかとフレンが笑う。

「相変わらず、ユーリは目の前の事件をほうっておけないんだな」

「いや、オレがっていうか、こっちの…」

ユーリが視線を向けると、合わせたようにリタが前に立ちフレンに言う。あの魔導器を調べさせてほしいと。しかし即答気味に却下されてしまい、彼女がどうしてだと怒鳴り声を上げる。その時だ。結界魔導器が、暴走を始めた。





ああもう、言ってるそばから!





 


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