26 「……彼らをどうするのですか?」 意を決したようにエステルが前に出る。が、キュモールは変わらず高圧的な笑みを浮かべたままで、とても皇族に対する態度には見えない。 「決まってます。姫様誘拐の罪で八つ裂きです」 「待ってください。わたしは誘拐されたのではなくて……」 「あ〜、うるさい姫様だね!こっちに来てくださいよっ!」 途端、キュモールは態度を一変させて剣先をエステルに向けた。やはり彼は姫君を姫君と思っていないらしい。舌打ちしたユーリが剣を抜き、一戦交えることになるかと思ったが。 「ユーリ・ローウェルとその一味を、罪人として捕縛せよ!」 そこに響いたのは、帝都やハルル、エフミドの丘で聞いた声だった。アデコールとボッコスを引き連れたルブランが、紫色の騎士たちの背後から姿を現す。キュモールが、げっと顔を歪めた。 「貴様ら、シュヴァーン隊……!待ちなよ!こいつは僕の見つけた獲物だ!むざむざ渡さんぞ!」 「獲物、ですか。任務を狩り気分でやられては困りますな。それに先ほど、死ね、と聞こえたのですが…」 「そうだよ、犯罪者に死の咎を与えて何が悪い?」 「犯罪者は捕まえて法の下で裁くべきでは?」 「……ふん…そんな小物、おまえらにくれてやるよ」 言って、キュモールは彼らに背を向け歩き出した。イライラしながら廃墟の外に足を向けた上司を追い、隊員たちも去っていく。 ルブランはエステルに向き直り、ボッコスが彼女の前に立ち手を差し出す。 「ささ、どうぞ、姫様はこちらへ。あ、お足元にお気をつけて……」 「あの、わたし……」 「こちらへどーぞ!」 「こやつらをシュヴァーン隊長の名の下に逮捕せよ!」 するとルブランは今度はユーリらに目を向け、部下たちに指示を出した。応じたアデコールらが彼らの捕縛にかかるが、ユーリは剣を収め、ラピードにも大人しくしていろと告げて抵抗をやめる。騎士の精神を持っている分、ルブランたちに捕まるならマシなものだ。キュモール隊に比べれば、というだけだが。 「ユーリ一味!大人しくお縄をちょうだいするであ〜る!」 「一味って何よ!なにすんのよ!はなせ!あたしを誰だと…」 「ボ、ボクだって何もやってないのに!」 「彼らに乱暴しないでください!」 「エステル、心配しなくてもいい」 「ユーリ…!」 「シュヴァーン隊長、不届き者をヘリオードへ連行します」 アデコールとボッコスが捕らえたユーリらを連れていくのを見送って、ルブランは頭上に顔を向ける。崩れかけた塀の上に立った、橙のサーコートを身につけた騎士が、それに応じて片手を上げた。 姫君の旅、ここで終わる…? ×
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