25 巨大な魔物がその場を去ると、それを確認してか、竜が飛びかかるティソンを振り払い天井の水の向こうへと飛んでいった。獲物を逃がしたことで『魔狩りの剣』も撤収を決めたようだ。 上空にあった魔導器が床に落ちて音を立て、天井に張られた水が雨のように降ってくる。ここは危険だ。ユーリたちもそこを離れるべく駆け出した。 「何かあればすぐにそう!いつもいつも一人で逃げ出して!」 ナンの声が聞こえてきたのは、外に出てすぐのことだ。建物の陰で口論をしている彼女とカロルの姿が見える。とりあえずは無事だったか。ユーリが安心して肩から力を抜いた。 「やましいことがないのなら、さっさと仲間のところに戻ればいいじゃない」 「だからそれは…」 「あたしに説明しなくていい。する相手は別にいるでしょ」 ナンが視線を向けたことでカロルもこちらに気付いて振り返る。不安げな顔をした彼に、無事で良かったとエステルが、リタはこっちは大変だったんだからと溜め息混じり言った。 「ご、ごめんなさい…」 「ま、ケガもないみたいで何よりだ」 ユーリが少年に歩み寄り、その頭を優しく撫でる。と、ナンがカロルに背を向けた。 「もう、行くから」 「あ、待って…」 「自分が何をしたのか、ちゃんと考えるのね。じゃないともう知らないから」 それだけ言って彼女は去っていった。半ば呆然と見送ったカロルの頭を、ユーリは今度は些か乱暴に掻き回す。 「わっ、ちょっと!や〜め〜て〜よ〜!」 「行こうぜ、カロル。もう疲れた」 「ユーリ…」 それにしても、とんだ大ハズレだった。『紅の絆傭兵団』はいないわ厄介事に巻き込まれるわ化け物と闘うはめになるわ。確かな情報ではなかったとはいえ、やはりあのおっさんからの情報は信用ならない。次からは注意しなければ。というか、次会った時は出会い頭に焼いてやるとリタがいきり立っているので、まともに会話が出来るかは怪しいところだが。 とりあえず、バルボスの足取りを追おうにも情報が無ければと、トリム港に戻ることにして出口に向かう。しかしそこを塞ぐように立つ騎士たちに気付いて、一行は足を止めた。紫色の鎧にピンクのサーコート。ユーリが嫌そうに眉を寄せた。 「漸く見つけたよ、愚民ども。そこで止まりな」 武器を構える騎士を従えた彼は、高圧的に言って笑みを浮かべた。 「わざわざ海まで渡って……暇な下っ端どもだな、キュモール」 「くっ……キミに下っ端呼ばわりされる筋合いはないね。さ、姫様、こ・ち・ら・へ」 キュモールが腰をくねらせながら前に出ると、エステルが身を引く。彼の言葉にカロルが首を傾げた。 「え、姫様って……誰?」 「姫様は姫様だろ。そこの目の前のな」 「え……ユ、ユーリ、どうしてそれを…?」 「やっぱりね。そうじゃないかと思ってた」 「え、リタも……?」 エステルが、姫様? ×
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