赤星は廻る | ナノ



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大剣を持った大男と細身の男(先程の声は彼のものらしい)、大きなブーメランのような武器を背にしたナンが、ユーリらから離れた場所に立っていた。そちらはエアルがそれほど濃くないらしい。

「なんだ、クビになったカロルくんもいるじゃないか!そっちはエアルがかなり濃いようだねぇ!」

楽しそうに言う男は、ナンの師匠であるティソン。大男は『魔狩りの剣』の首領(ボス)、クリントだ。彼らは逆結界に捕らえた魔物を狩りに来たらしい。

「ちょうどいい、そのまま大人しくしていろ。こちらの用事は、このケダモノだけだ」

「大口叩いたからには、ペットは最後まで面倒見ろよ」

途中で捨てられると迷惑だ。苦しげに顔を歪めながらも、ユーリは笑みを作って言う。その時だ。魔物の鳴き声が響き、皆が頭上を見る。直後、天井を破るように竜が飛び込んできて、その背に跨がる者が魔導器を槍で貫いた。

「またアイツ!」

リタが憎々しげにそれを睨む。魔導器が壊されたために魔物を捕らえていた結界が破れたが、ユーリらを苦しめていたエアルも急激に薄くなった。暴れ出す魔物にクリントが剣を振るうが、白い鎧に身を包んだ人間を乗せた竜がそれを妨げる。ティソンがニヤリと笑みを浮かべた。

「まずオレを倒せってことらしいぜ。おもしれぇじゃねぇか!!」

ナンが武器を放ち、竜はそれをひらりひらりと避けていく。ティソンが壁を駆け上がり、天井付近の壁を強く蹴ると落下しながら竜使いに掴みかかった。
三人が竜使いと闘っている間に、暴れる魔物によってユーリらがいた床が崩され、足場を無くした彼らは魔物の立つフロアに落とされる。

「やべ……足震えてら」

自嘲気味に言うユーリは、震える足を叱咤して立ち上がった。目の前には巨大な魔物。これまでに闘ったことのあるものとは明らかに違う、化け物だ。結局はこうなるのか。恐怖を振り払うように鞘を投げ飛ばし、剣を握った。
魔物との戦闘は嫌いではないが、こんな化け物の相手は正直遠慮したい。大樹のような太い前足に踏み潰されるのを避けながら、ユーリは技を打ち込む。ラピードとエステル、リタの助けで何とか対することが出来ているものの、これだけの魔物を倒せるとは思えなかった。何しろ、斬撃を命中させても効いている感覚がほとんどしないのだ。
暫く戦闘が続き、ふいに動きを止めた魔物がじっとエステルを見つめる。彼女は何事かと左手の盾を構えるが、魔物はゆっくりとした動きで歩き出し、破壊された壁の向こうへと消えていった。退いてくれて助かった。エステルが深い息を吐き出し、ユーリが剣を下ろす。リタが気付いた。

「あれ、カロルは?」





ガキんちょ、どこ行った?





 


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