23 結果から言えば、カルボクラムにいたのは『紅の絆傭兵団』ではなく『魔狩りの剣』だった。 レイヴンから得た情報を元にトリム港の北西に向かったユーリたちは、地震で滅びたという街というか廃墟、カルボクラムを訪れた。 「そこで止まれ!当地区は我ら『魔狩りの剣』により、現在完全封鎖中にある」 人気の無さそうなそこに入って早々、『魔狩りの剣』のメンバーである少女に立ち入り禁止だと告げられた。対して声を上げたのはカロルだ。 「ナン!」 どうやらナンというその少女は、彼が復活したハルルの樹を見せたかった相手らしい。やっと追い付いた、合流出来て良かったと喜ぶカロルを、しかしナンは険しい顔で睨み付ける。 カロルはハルルの街で、樹を治すためにエッグベアを探しに行った。それを、多くのギルドを転々としていた彼の経歴から、ナンは逃げ出したのだと判断してしまったらしいのだ。 「逃げてなんかいないよ!ちゃんとエッグベアも倒して…」 「それも嘘ね。せっかく『魔狩りの剣』に誘ってあげたのに…」 「だから…っ」 「昔からいっつもそう!すぐに逃げ出して、どこのギルドも追い出されて…」 「わあああああ!!」 結局カロルの言いたいことはほとんど伝わらず、彼はもうクビだと言い渡したナンは去っていった。おそらく奥にいるだろう仲間たちの元に向かったのだろう。 先程の警告を気にも留めずに進むリタの後に続こうとしたユーリが、俯いたままのカロルに気付いて振り返る。ショックを受けた様子の少年は、それでも彼の視線に気付くと慌てたように駆け寄ってきた。 「あの……ここって、本当に地震で滅んだんでしょうか?」 廃墟の中を暫し歩いた後、エステルが口にした疑問。オレも同じことを思ったとユーリが言う。どうも建物の様子を見るに、地震で滅びたという感じではない。しかし、いくら憶測で語ろうとも答えてくれる者はいないのだ。 疑問に思いつつも足を進め、『紅の絆傭兵団』が隠れていそうな建物を見つけてその地下に続く階段を下りる。異変に気付いたのは、そこでだ。 「ねぇ、なんか息苦しくない…?」 カロルの問いは、全員が肯定するものだった。いやに呼吸がしづらく、体が重い。気分が悪い。引き返すかと悩む彼らの視界に、緑色の小さな球体がいくつも浮かんだ。これ、エアルだ。リタが言う。 「エアルって目に見えるの?」 「濃度が上がるとね」 いずれにせよ長居をするとマズイらしい。ならばさっさとことを済ませようと、ロックを解いた扉を開けた。 ドーム状の部屋の天井にはいっぱいに張られた水が浮かび、その中心には魔導器らしきものが浮いている。足元には結界が張られ、その向こうには巨大な魔物の姿が見えた。カロルが悲鳴を上げる。魔物が暴れる度に結界がぶるぶると震えるが、あれは逆結界だからそう簡単に破れはしないとリタが言った。 そこにもやはりエアルが溢れており、苦しげに呻く彼らの中でリタが顔を上げて宙に浮かぶ魔導器を見る。この現象はきっと、あの魔導器が起こしているのだ。何とかしてやらねばと走るリタ。ユーリが目を細めた。 「俺様たちの優しい忠告を無視したのはどこのどいつだ?」 やっぱりあのおっさんに関わるとろくなことが無い ×
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