17 傭兵たちから見えないように塀の裏に身を隠していると、明らかに自分たち以外の者の声がして、一斉に振り返った。彼らの視線の先には、紫色の羽織を着て、黒い髪を頭頂部で束ねた中年男性が、当たり前のような顔をして立っている。 思わず声を上げかけたエステルに、男は右手の人差し指を口の前で立てて見せた。 「こんなところで叫んだら見つかっちゃうよ、お嬢さん」 「えっと…失礼ですが、どちら様です?」 「なに、そっちのかっこいい兄ちゃんとちょっとした仲なのよ」 男の言葉に、ユーリ以外の皆の視線が青年に向かう。しかし彼は、知らん違うと顔を背けた。 「つれないねぇ。城の牢屋で仲良くしたじゃない、ユーリ・ローウェルくんよぉ」 「ん?名乗った覚えはねぇぞ」 男は、ユーリが城の牢を抜け出す時に手を貸してくれた者だったのだ。しかしいくらか会話を交わした覚えはあるが、名前は教えていない。警戒しつつ問えば、彼はユーリの手配書をひらつかせて見せた。なるほど、納得した。 「おじさんの名前は?」 「うん?そうだな、とりあえずレイ…」 「レイヴンじゃないか」 また新たに聞こえた声に、そちらへと目を向ければ。 「……げ」 「なんだい、久々に会った顔に随分だね」 思いっきり顔を顰めた男に、腕を組んだアカは大袈裟に溜め息をついてみせた。 「なんだ、知り合いか、お前ら」 「んー、まぁ一応ね」 「何者なのよ、このおっさん」 「見たまんま。胡散臭いおっさん」 アカってば酷い!とわざとらしく体をくねらせて嘆いている男ーーレイヴンを無視して、ユーリに状況を聞く。屋敷への侵入方法を探しているとの答えが返ってくると、結局誰にも相手にされなかったレイヴンがすっくと立ち上がった。 彼も屋敷に用があるらしく、門番を何とかしてやると言って傭兵たちの前に出ていった。 止めなくていいのとカロルが慌てる。 胡散臭いわねとリタが疑う。 城を出る時は本当に助けてくれたんだよなとユーリが呟き、なら信用出来るんじゃないでしょうかとエステルが言う。 そうかねぇとアカが溜め息をつくや否や、傭兵たちがこちらに走ってきた。その向こうでは、こちらに振り返ったレイヴンが暢気に笑ってバク宙なんかをして見せ、塀の中に消えていく。リタがキレた。 「あたしは誰かに利用されんのが大っ嫌いなのよ!」 足元に浮かぶ術式は赤に近い橙色。素早く組み上げ詠唱を終えた少女は、空中に生み出した炎の玉を、向かってくる傭兵たちに遠慮なくぶつけた。倒れた男たちは目を覚ます気配も無い。気絶していることを確かめると、門番もいなくなったことだしと塀の中に向かって駆け出した。 あのおっさん、ぶん殴る! ×
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