赤星は廻る | ナノ



リタと

 



満開に咲くハルルの樹は、やはり夜よりも昼に見たほうが綺麗だ。少なくとも、自分はそちらのほうが好きだ。街の中の坂を上って樹の前に着くと、そこに腰を下ろしてからアカは改めて樹を見上げた。
アスピオから戻り、ノール港へ向かう前にと立ち寄ったハルルの街。樹は変わらず満開の花をつけている。

「ちょっと」

不機嫌な声をかけられて視線を下ろす。樹の前に立って同じように見上げていたリタが、こちらを向いていた。

「あんたもいたんでしょ?結界魔導器が直った時。本当にエステリーゼがやったの?」

「なんだ、バレてんだね」

アスピオで問われた時、カロルが口を滑らせたのをユーリがフォローしていたのに、結局は無駄になっていたわけか。何でもない風に返して、また樹を見上げる。リタもそうした気配がした。

「全部の蕾が開いてる…こんなの異常よ。結界は安定してるけど、魔導器に影響があったら…」

「リタは、本当に魔導器が好きなんだね」

「な、何よ急に」

アスピオを離れる前に、彼女が言ったことを思い出す。人に期待しても無駄だと知った。魔導器だけは自分を裏切らないから、楽なのだと。それはきっと、彼女の過去に関係があるのだろう。……興味は無いが。
実際、自宅にある魔導器には名前をつけているようだし、それを人のように扱っていることから見て、少なくとも普通の魔導士よりは魔導器に愛着を持っていることがわかる。

「で、初めての友達はエステルだって?」

「それはあの子が勝手に言ってるだけでしょ」

「けど満更でもない、と」

「なっ!」

勢いよくこちらを向いた少女の顔がみるみる赤くなっていくのを、アカは笑って見た。素直でいいことだ。

「うん、人を信じるって難しいことだけどね、友達ってのもいいもんよ」

「…何よ、知った風なこと言って」

「知ってるからさ。友達の有り難さも、人を信じることの難しさも」

「……」

街の入り口のほうが騒がしいのに気付いて、腰を上げる。リタは彼女の言葉に何か返すでもなく、樹に背を向けたアカについてくるだけだった。





君らは、うちみたいになっちゃいけないよ





 


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