赤星は廻る | ナノ



05

 



下町を湖にしてしまいかねない勢いで水漏れを起こす水道魔導器に、魔核が設置されていないことに気付いて。修理を請け負った『モルディオ』という人物を訪ねて貴族街に赴いてみれば、頭からフードを被ったローブ姿のモルディオらしき者を見つけたものの、隙をつかれて逃げられてしまった。
その後を追おうとモルディオ邸(仮)を出ると、すっかり顔馴染みの騎士二人、デコボココンビ(アデコールとボッコス。鼻の下に髭を生やしたひょろ長の男とだるまのような体型の小柄な男だ)に邪魔されて。それを退ければ、今度は嫌みな貴族の坊っちゃんが率いるキュモール隊とその隊長に阻まれ、投降せざるをえなくなった結果、城の牢屋にぶちこまれることとなった。

(……そういやあのおっさん、結局何者だったんだ?)

隣の牢にいた胡散臭い男のおかげで脱獄できたわけだが、騎士団長アレクセイ直々によって牢を出された彼の正体は少し気になる。まあ、もう会うことも無いだろうし、尋ねる機会も無さそうだが。
無意識に短く溜め息をつき、ユーリはそばで横たわる少女に目を向けた。ラピードの背を枕に眠る少女はまだ目を覚まさない。

(エステリーゼ、ね)

彼女に会ったのは城の中。下町の様子を見たら朝までに戻ってこよう、と牢を後にしてすぐのことだ。……結局はデコボコやその上司のルブランに気付かれ無駄に終わったのだが。
騎士に追われていた彼女を助けて、フレンの部屋に連れて行ってやったが、既に彼は巡礼に出た後だった。そこに乱入してきた暗殺者らしきイカれた男に、フレンと間違われて襲われて。なんとか退け、牢で会った男に教わった抜け道で城を出て。下町に戻り、アカに会って、結界の外へと繰り出した。
……思えば、かなり怒涛の展開だったな。視線を手元に戻して、右手の赤い実に歯を立てた。途端に口内に広がる苦味に思いきり眉を寄せる。

「……ん……」

と、エステルが目を覚ましたようだ。体を起こして辺りを見回す彼女に声をかけ、簡単に状況を説明してやる。すぐにでも出発しそうなエステルに、また倒れて今度は夜まで目覚めなかったらどうすると言ってやれば、彼女は納得してユーリの隣に腰を下ろした。
今しがたかじったものと同じ実をユーリが差し出すと、受け取ったエステルはそれを口に寄せ、

「うっ」

「はは、やっぱそれで腹ごしらえは無理か」

「と、てもおいしいです」

「待ってな。簡単なものなら作れっから」

「そんならうちの分も頼むわ」

荷物の中から食材を取り出そうとしたところで聞こえた声に顔を上げる。腹の辺りまでの高さの草を掻き分けて現れたのは、予想通りアカだったのだが。

「……」

「わぁ顰めっ面」

「あのなぁ……」

彼女に襟首を掴まれて引きずられている少年を見つけて、ユーリは大きな溜め息を吐き出した。





だから何でもかんでも拾ってくるなっつーに





 


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