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▼五臓六腑を差し出して

「好きです、友達からでもいいので付き合ってください」


名前も知らないその女子生徒は顔を赤らめて必死に気持ちを伝えてくる。
お互いが知り合いというわけでもないのに告白という選択肢は何故出てくるんだろうと考えて、ああそうか、だから友達から、なんて言葉が続くのか。とどこか納得をする。
上目遣いでこちらを伺いながらもじもじとする様子は俺がこの人に好意を持っていなくても可愛いなと思ってしまう。思ってしまうが脳裏に出てくるのは名前の姿で、名前がもし恥じらうようなこの姿をしたならばと考えてしまう俺は中々この人に失礼だ。
身長差のせいで名前も俺を見上げるため、自然と上目遣いになるけど、好意を持っています。と顔面に出して俺を見るなんてあり得ない話だし、真っ裸に恥じらいも持たないのだからもじもじとする事もない。
もししたら、なんて想像してみれば目の前の女子には悪いが、俺の脳内で恥じらう名前は相当可愛い。










「赤葦、お前本当に男か?」
「はい?」


藪から棒に突然なんなんだ。
放課後の部活終了時間。汗で体が冷えないようにTシャツを着替えてから体育館でクールダウンを行う。
いつもの手順に俺も従って行えばそばに寄ってきた木兎さんが突然そう口にした。
突拍子もない木兎さんの言葉に会話が読めず「何ですか突然」と聞き返せば何故か木兎さんは信じられないものを見るかのように俺を見てくる。


「据え膳食わぬは男の恥っていうじゃんか」
「は?据え膳?」


何の話だよ本当に。
怪訝に聞き返せば、話が通じていないことにイライラしたらしい木兎さんが地団駄を踏んだ。が、話が通じなくて困っているのは俺の方である。


「だぁーからぁ!」


突然と声を張り上げる木兎さんに一瞬怯むのは仕方がないだろう。この人の生態は未だわからず。何でイラつき何で怒り何で機嫌を直すのか、沸点も境界線も何もかもがぐちゃぐちゃな木兎さんに自分の物差しは使いようにならず彼に関しては解明できない部分が多い。
声を上げた木兎さんの後頭部にバレーボールが飛んできたのは本当にすぐのことだった。


「いってぇ!」


若干の涙目で頭をさする木兎さんに「何言ってるの全く」とやってきたのはマネージャーの白福さんだった。
どうやらバレーボールをぶつけたのは彼女らしい。拾い上げたボールを両手で抱えて、じとっとした視線を木兎さんに投げる白福さんはどこか棘を含んでいるように見えた。


「今朝の子が可愛かったからーとか、胸が大きくてーとか言うんでしょー」
「は、いや、俺は」


なんてことだ、今朝の告白現場をどうやら見られていたらしい。
白福さんの言葉にしどろもどろになった木兎さんに俺は溜息をつきたくて仕方なかった。
据え膳て、何を言っているんだか。
何かを言おうとする木兎さんに白福さんは「変態」と容赦ない言葉を吐き捨てて、木兎さんがしょげてしまった姿を目の当たりにする。
それを横目で見てから彼女は俺を見上げた。


「でもさ、たしかに興味ないのー?」


赤葦モテるじゃん。と付け足された言葉に、この話題が木兎さんがしょぼくれたことで終わらなかったのに驚く。まあ、部活も終わりの時間なので今しょぼくれモードになっても何ら問題はないのだけど。


「そんな余裕あると思います?」
「彼女を作る作らないは赤葦の自由だけどさー、好きな人くらいいないのー?」


吐き捨てて切り上げようとした話題に尚も白福さんが食いついてきた。木葉さんなんかとこういう話題を話しているのを他人事に聞き流していたことはあるが、まさか自分に振られるなんて思わず、今朝の場面は好奇心をくすぐってしまったらしいと小さく息を吐いた。
この雰囲気、好きな人がいるといれば誰だとノってくるだろうし、いないと言えばおそらく悪ノリで誰か紹介しようかと言ってくるだろう。事実数日前に木葉さんと白福さんがそんな会話をして小見さんがその話に混ざっていくのを遠目で見て、あれが普通の男子高校生だろうかと考えたのを覚えている。

なんて返せば白福さんが納得するのか考えていれば、いつの間にか復活したらしい木兎さんがずいっと入ってきた。


「じゃあ俺が名前ちゃんを貰ってやろーか!?」
「…はい?」


何故名前が出てくるのか、何を言っているのか、怪訝に眉が寄るのが分かった。「木兎ぉ?」と同じように顔をしかめる白福さんに木兎さんは少し焦ったように「いやだってさ」と言葉を繋いだ。


「この間言ってたじゃん!」


名前ちゃんがいる限りそういうの無理って。
そのセリフに、ああ。と納得したのは先日の食堂の会話だろう。あの時正確になんて言ったのかもう覚えていないが、そんなことを口にしたのは記憶にある。
木兎さん達に違う意味で聞こえるように、そして名前本人に皮肉に聞こえるように。たしかに言った。


「なら俺が名前ちゃんと付き合えば、あかーしは気兼ねなく好きな子作ったり彼女にしたり出来んじゃん!」


名案と言わんばかりに誇らしげに言いのけた木兎さんに言葉を失う。
何故そんな発想になったのか疑問だが、予想も出来ない奇想天外なところが木兎さんという人なのだと俺は梟谷に来てから嫌という程知っていた。


「おーいバレー部、最終下校時刻過ぎるぞー」


早く帰れ、と体育館に響いた声は見回りの教師のものだった。もうそんな時間だったらしい。けどおかげで強制的に終了できた会話に安堵し「クールダウン終えた人から撤収してください」と声を張り上げた。
いつもならもう少し早くにそのセリフを口にするのだが、今日は木兎さん達に気を取られてしまって時間を気にすることが出来なかった。

帰路に着いて苗字家に向かう。合鍵を取り出して中に入れば、パタパタとスリッパの音を立てながら名前が小走りで玄関までやってきた。


「おかえり京治」
「ただいま」


ここは俺の家ではないのだから、ただいまっておかしいけどこのやりとりも1年続ければさすがに慣れてしまって口から出る言葉に抵抗はなかった。
リビングに行き荷物を置いてブレザーを脱ぐ。制服のズボンが濡れないように裾を折りあげて、名前に「風呂入ろっか」と声をかければ名前はふわりと笑って頷いた。
名前が絶望の表情をしたあの日、その理由を聞かないまま数日が経ち、名前の態度は普段と何ら変わりない。
だからこそ俺はますます聞かなかった。

脱衣所で名前の服を脱がす。平日は制服のままな名前を脱がすのは実は好きじゃない。
Tシャツなら剥ぐ感じがして気持ち的に何とも思わないのだが、ブラウスのボタンを一つ一つ開けるのがなぜか背徳感を覚えるのだ。
少しずつ視界に肌色が増えるのは毒だ。
つまり気分的な問題。
制服を脱がすのもそうだけど、脱がせた服を一度床に落とすのも何か後ろめたい気持ちがあるから。
脱いだばかりの服や下着を掴み上げるなんて、さすがに出来なくて床に一度落として名前を風呂に入れて時間を置いてから衣類を回収する。
名前を湯船へ突っ込んで髪を洗ってやるために頭からお湯をかける手順は、いつも通りだった。


「そういえばさ、」


そこでふと先程の会話を思い出した俺は、何となく、けれど名前の反応が見たいという本音もあり話題として声に出すことにした。多分「へぇーそうなんだー」で終わりそうな気はするけど。


「木兎さんが名前を貰ってくれるってさ」
「へ?」


お湯が十分に髪を濡らしたのを確認しシャンプーを手に出した。名前の好みと言うよりは俺の好みで変更したそのシャンプーは匂いがきつくなく、いい香りだなと思わせるものだった。
きょとんとした名前の頭にシャンプーが乗った手を乗せて髪と交えるようにわしゃりとやれば、次第に泡立つ様子に行なっていることはいつも通りだと他人事に思っていた。


「そうすれば気兼ねなく俺が女子と付き合ったりとか出来るだろって」


気を利かせて言ったみたいだけど。と続けた言葉に名前は何かを考えるように眉をひそめた。そして、「ああ、この間の?」とどうやら食堂の会話を思い出したらしかった。
「流すよ、目瞑って」「はーい」いつも通りの会話を挟みながら作業は止めず進めれば名前も従って目を瞑る。


「木兎さんとかぁ」


泡を流し切った後、名前が何か意味を含んだようにそう呟く。
その続きを待ちながらコンディショナーを今度は取り出し、髪に馴染ませる。
実際名前と木兎さんが付き合うとかそう言うの想像が出来ない。というか、したくないと言うのが本音だけど、ふわふわとして無知な名前と猪突猛進な木兎さんの組み合わせはきっと激しく周りを巻き込んでめちゃくちゃにするだろう。
静かになった名前からふと視線を感じて彼女の髪からその瞳を見移せば名前がじっと俺を見上げていた。


「なに?」
「京治はどう思う?」


何か言いたげな表情に名前を促せばそう聞いてきた彼女に俺は少し面食らう。


「木兎さんとだったら楽しそうって思うんだけど」


どうかな?と満更でもないような、そんな返答は全くの予想外で俺は言葉を失くした。


「付き合いたいの?」


質問に質問を返すのは何かを誤魔化したい、庇いたいという心理だと何かで聞いたなと思いながらも俺はそう名前に尋ねる。
名前は俺の質問に目を瞬かせてじっとこちらをみていた。
とりあえずコンディショナーを流すかとシャワーを手に頭からお湯を流す。流れ切ったところでシャワーを止めれば名前はそっと目を開きそしてまた俺を見つめてきた。


「木兎さんとなら付き合いたいかもしれない」


そうして口にした言葉にガツンと頭を殴られたような感覚になった。
今までされてきた告白も丁寧に断ってきた名前がまさかそんな事を言うなんて予想していなかった。


「木兎さんの事好きなの?」
「好きだよ?」


次いで聞いた俺の言葉に首を傾げながら答える名前の顔は、恋愛の好きではなく友愛の好きだと言っているのが目に見てわかった。
わかっていたけど、名前の口から出た好きだよ、との台詞に何かが切れる音がして。
浴槽の縁に置かれた名前の手首を掴み引き寄せる。パシャリ、お湯が跳ねて俺のシャツにかかった。


「んんっ」


押し付けた唇に名前のくぐもった声が漏れる。浴室特有の反響する空気に頭がクラッとして、今までずっと我慢していた理性なんて呆気なく崩壊してしまった。
一度唇を離してまた角度を口付ける。苦しそうに声を漏らす名前の唇をペロリと舐めれば彼女の体がビクリと飛び跳ねたのがわかった。


「ふぁ…けえ、じぃ…」


名前の甘ったるい声が俺の鼓膜を揺らし刺激する。ああやばい、やばい。ムラムラと己の欲が湧き立つのを感じてなけなしの理性を蹴り上げる。


「……こういうこと、木兎さんと出来るの?」


唇を離して体を離す。掴んだままの名前の手首が熱いのか俺が熱いのか、まるでのぼせてしまいそうな感覚に静かに息を整えた。
真っ赤に顔を赤らめた名前は俺も見たことがないような女の顔をしていて、それがまた俺を揺さぶるのだと知らないんだろう。


「そういうの考えてから決めなよ」


何も言わない名前に俺はそう告げて、逃げるように浴室を抜け出した。

やってしまった…

いままで耐え抜いて来たのに、とうとう手を出してしまった後悔に苛まれながら脱衣所に落としたままの名前の制服を拾い下着を洗濯機に放り込む。
またその服達が生々しく感じた。


「(柔らかかったな…)」


後悔しながらもそんな風に思ってしまう俺はやっぱり狂っているんだろうな。