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▼あなたを愛した私



「愛しているよ」



見返りなんていらない。私は何もいらない。ただ愛していたい。
頑固のくせに優しくて、強がりのくせに寂しがりやで、天才と呼ばれても尚、貪欲で、口は達者なのに不器用で、たった1人の弟を、どこまでもどこまでも大切にしていて、人を愛したこの男を、そして神様に嫌われたらしいこの男を、私は愛している。
嘘偽りない私の言葉を聞いて、男は悲しそうに眉をハの字にした。
そんな表情をさせたかった訳じゃないんだけれど、私はきっと何をどう頑張っても、この男を幸せにさせる事は出来ないんだろう。
きっと笑顔にさせる事すら難しいに違いない。
ごめんね、ごめん。それでも私はあなたを愛しているんだ。



「なんで俺なんだ?」



悲しい表情のまま彼は私に聞く。
なんで?理由なんて分からない。
私が分からないのだから彼が分からないのは当然だった。
でもきっと、あの時。あの時に私は彼の事が好きなんだと気付かされた。彼の真っ直ぐに私を見つめていた瞳はとても強くて、力強く「お前は人間だ」と告げたこの男を、私はその瞬間に、ああ好きだ、と、そう思ったのだ。
この私を。この化け物を、この男は慰めでも同情でもなく、人間だと言った。言い切った。
今思うと己に言い聞かせていたのだと思う。弟の事があれば私の事を人間だと彼は言うと分かるが、あの時の私はそんなの関係なかったし、恐らく知っていたとしても私は彼を好きになっていた。だってあの言葉は気付かされたきっかけにすぎないのだから。
ならば、何故なのか。そんなの私がわかる訳ない。
今の私なら、あの時の私にやめておけと言えるけどわ私は1人しか居なければ、時空を越える力なんて持っていないのだからそんな事は不可能だ。

ならば、彼になんと答えようか

化け物の私を人間と言ったから。なんて告げればこの男は傷付くだろう。優しく不器用なこの男は自分の心を守る事なんて出来ず、きっと深く傷付くはずだ。
この男の人間≠ニいうカテゴリーはとても広い。



「理由が必要かい?」



きっと彼は自分を許せていないのだろう。神様に嫌われた罪を背負っていると言った彼は、愛される資格がないと、きっと思っているはずだ。実に彼らしい。
だから簡単に信じる事など出来ないんだろう。
ならばどうしたら伝わるのか、私の中で答えが見つかるより早く、私は彼を抱きしめていた。
そうだ、ならば彼を抱きしめよう。きっと触れなければ伝わらない。愛する≠ニいうのは動詞だから。愛≠ヘ目に見えない。温もりでしか伝えられないのだ、きっと。



「愛する事に理由なんて要らないよ」



私の言葉に彼はビクリと体を震わす。それでも暴れる事なく黙って私に抱きしめられていた。なので私は、もっともっと伝わればいいと、抱きしめる腕に力を込めて、そして言葉を続ける事にした。



「人は生まれた瞬間から、父に、母に、世界に、祝福されて愛されて生まれ落ちるものだと思うよ」



化け物である私はそれに該当しないけど、人間である彼はそうだったはずだ。
父に、母に、そして世界に。
たとえ神様が嫌おうとも、人は祝福され愛され生まれるのだ。



「きっと人は誰かを愛さずにはいられないんだよ」



だから疑問を持ったとしても否定は決してしないでほしい。
私の気持ちは私だけの物だ。そしてそれは愛へと変わり彼にただ捧げる。



「理由が必要かい?」



再度、同じ事を聞くと、彼は小さく首を横に振った。
愛している。見返りなんていらない。私は何もいらない。ただ愛していたい。
頑固のくせに優しくて、強がりのくせに寂しがりやで、天才と呼ばれても尚、貪欲で、口は達者なのに不器用で、たった1人の弟を、どこまでもどこまでも大切にしていて、人を愛したこの男を、そして神様に嫌われたらしいこの男を、私は愛している。



「私はもうすぐ消えてしまうけど、私の愛は確かにあって、君をただひたすらに愛していたよ。それだけは消えない事実だから。私が消えても、私が忘れても、どうか君は、君だけは覚えていてほしい。誰かに愛されていたという事実を。必要とされていた現実を」



私はあなたを愛してる。私が私でなくなってしまっても、この男を愛した気持ちが消えてしまっても、きっと、私じゃなくなった私の中でも、どこかに愛は残ってる。
隠れて存在している。だって愛は動詞だから。



「ねえ、エドワード」



私はあなたを愛したよ。
















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