皆さんは、秋と言えば何を思い浮かべるだろうか。
食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋。紅葉やお月見などよくニュースの特集などで取り上げられるのはこのあたりだろうか。
そんな私はというと、読書の秋真っ只中であった。普段は読書なんか全くしないのに、だ。
事の発端は、先日行われた球技大会。一年生のときの親友と賭けをした。今年はクラスが分かれてしまったがために、どっちのクラスが優勝するかで揉め、「勝った方の言うこと何でも一つきく」という何ともありきたりで馬鹿な賭けを。結果、私たちB組は決勝で僅差で負けた。親友は私に「好きな人に手書きのラブレターを書け。あんた見てるといつまでもうじうじとウザい。さっさと当たって砕けてしまえ」などと抜かした。もちろん私は反論するも聞き入れられることはなく、私の好きな人、同じクラスの倉持くんにラブレターを書くことになった。ファンレターにしようとも思ったのだが、親友に見抜かれていたのでやめた。
それが一体何で読書に繋がるのか。なぜなら参考にしようと、姉から借りた恋愛小説を片っ端から読み漁っているからである。ちなみに今日で一週間経つがラブレターは出来ていない。ドラマ化や映画化で話題になっているらしいこれらの小説にはラブレターなんてものは一切出てこないからだ。
仕方がないので、あまり使いたくない手段だったけど、ネットで「ラブレター 書き方」で検索した。“効果的な書き方徹底解説” “愛が伝わるラブレターの書き方” などでヒットしたので、それらの文字を追ってみたものの、いまいちピンと来ない。
さて、いったいどうしたものか。
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その日の朝、私はまだ登校していない日直の代わりに、教室のベランダに引っ掛けてあるプランターの花へ水やりをしていた。HRが始まるまで、あと十分あるかないか。そこで少し息を切らした日直、倉持くんがやって来た。
「わりい、遅れた」
窓越しに、声を掛けられる。
「ううん、全然。大丈夫だよ」
これを忘れる日直、多いし。その度に園芸委員の私がやっている。仕事に近いので本当に気にしないでもらいたい。
「みょうじってさ、すごいよな」
「え?」
「今日もこうして俺の代わりに水やりやってくれてるしよ。俺のときだけじゃなくて忘れてるやついたらいつもやってるよな。それに日直の仕事のはずの黒板消しとか、電気消したりとか。よくフォローしてるよな」
そういうところ、すごいと思うぜ。
なんて、いきなり褒めるものだから、ほっぺのあたりが熱を持ち始めてしまった。
なにより、私のそういう些細なことを見てくれていたのが嬉しくて仕方ない。
「あ、ありがとう」
自然と、笑顔になる。
すると、倉持くんも自分が何言ったのかを自覚したのか、少し耳が赤くなった。
「どう、いたしまして……?」
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この時から、私は倉持くんが好きになった。その後に全校応援で、野球をして輝いている彼を見て、ますます好きになった。今年の野球部は、本当に惜しかったと思う。
自室の机の上の目の前には、一番上に『倉持洋一様へ』とだけ書かれたレター用紙。数時間かけて出来上がったのは紙くずの山。ずっとネットの文字を追いかけているけど。
ああ、あなたに伝えたい気持ちがたくさんあって、言葉にできません。
活字の海に溺れて
(窓からライトアップされてる紅葉の山肌が見えた、秋)