電車から見える母校に至るまでの桜並木を、いまはただの視覚情報とだけ認識している。
 丁度二年の春には全てを諦めきったような表情で、野球部の室内練習場の脇から桜を見上げていた彼。私では到底届く、いや届くかどうかの前に手を伸ばすことすら躊躇われるほどに顔面の造形に恵まれた彼。滝川君。
 顔面にばかり目をとられがちだが彼はとても紳士的だけれど、時にぼんやりしているときもある。 なんというか、後輩らに見せる完璧超人という言葉に違わない彼だけではないんだ。ってこと。
 
 何時ものように野球部の練習で疲れたのか、人間からこんなに汗が出るものなのかと思うほど汗を流して水道に頭を突っ込んでいる滝川君が手を辺りに置いて何かを探している風なんだけれども何も無い。多分タオルを忘れて水道に頭を突っ込んだんだろう。
 あんまり好きじゃないキャラクターだったし、と私のタオルを滝川君の手に掴ませてあげると、
「ありがとう……亮介?」
 大体身長が近いから小湊君の名前が出てきたのだと思うけれども、それを本人の前で言ったら。考えたくもない。
「……え?みょうじさん?」
「あの、タオル探してるみたいだったから」
「ごめん、確認しないで使った」
「いいの、別に」
「洗って返すから、また明日。帰り気をつけてね」
 その、また明日を言う年相応って言うと失礼だけれど優しくはにかむ表情に私は囚われたまま、この年まで散った桜をみるたび思い出している。

 自動ドアが開いて人が一斉に吐き出される。何時ものことだからどうということもないけれど。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -