※ドールズトークの小話。2年生になった、恋人同士の未来の話。


「棘く〜ん!」
「しゃけ?」

大浴場から寮へと戻っていく棘くんの後ろ姿を見かけた私は、大きな声で呼び止める。

「明日、真希ちゃんと野薔薇ちゃんと新宿行くんだー!」
「しゃけ」

頷きながらこちらへ歩いてきてくれる棘くんは、お風呂に入って代謝が上がったのかほんのりと頬を赤らめている。
乾かしきれなかったのだろうか、その髪がしっとり濡れているのに気づいた私は棘くんの手を取った。

「まだ乾いてないよ。男の子ってなんでドライヤーざっくりしかかけないの?」
「たーかーな」
「やだじゃないの! 風邪ひいちゃうし、髪はねちゃうよ?」

1年生の頃は髪が短かったのに、めんどくさいのかそういう気分なのか、少し髪が伸びた棘くんはちょっと子供っぽくてかわいい。
もし私に弟がいたら、こんな感じかな?
……背は私の方が低いけど。ほとんど変わらないし。

そんなことを言ったらたぶん拗ねてしまうだろうから、口には出さないけど。

「私は、かっこいい棘くんの方が好きだな」
「……ツナ?」
「うん。短くても長くてもいいけど、その……」

やばい。恥ずかしい。
顔が好みだから好きになったわけじゃない。
髪がサラサラだから好きになったわけじゃない。
だからこそ、棘くんにそれを伝えるのが恥ずかしい。

「な、なんでもない!」
「こ、ん、ぶ?」
「なんでもはなんでも! ほら髪乾かしてあげるから!」

言って? とあざとく小首を傾げたって無駄なのだ。
私がその主張を無視して歩を進めようとすると、棘くんはぐいと私の手を引く。

「っわ、」
「……」

ぎゅーっと後ろから抱きつかれて、目線をウロウロさせてしまう。

「棘くん、あの、ここ共用部だから」
「しゃけ」
「えっと、たぶんみんな通るし」
「しゃけ」

私が言うまで、棘くんは離すつもりがないみたいだ。
身体に回った彼の腕の温もりが私に移る。
この心臓の音が聞こえてしまわないか、とありもしない心配をしてしまう。

「……言わなきゃだめ?」
「……しゃけ」
「…………」
「…………」
「棘く」

「先輩たち何やってんすか」

口を開いて言いかけた私の背後、棘くんよりもっと後ろの方から伏黒くんの呆れたような声が響いた。

「……」
「あ、あは、えっと、あーっと、」
「ツナ……」

棘くんが「なんでこのタイミングで」とでも言いたげに呟いて、私を解放してくれる。

「虎杖もさっき着替えてたんで、たぶんすぐ来ると思います」
「はい……」
「しゃけ」

なんていい子なんだろう。
と、先輩思い(?)の伏黒くんを眺めていると、ふとあることに気づく。

「伏黒くん、まだ濡れてるよ」
「は? あぁ、別にすぐ乾くんで」
「棘くんも伏黒くんも、なんで男の子って髪乾かさないの? そういう種族?」
「まぁだいたいみんなそうですね。めんどいし」
「しゃけ」

私は子供みたいな二人を交互に見て、耐えきれず吹き出してしまう。

「二人とも子供みたい」
「え」
「おかか」
「だって、……ふふ」

笑う私を見て、棘くんと伏黒くんは顔を見合わせて不思議そうに首を傾げた。


棘くんのそんなところも、大好きだ。
……ついでに伏黒くんも。
もちろん、後輩として。


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2020.11.26-2021.01.29




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