「ナマエちゃんのコスチュームかっこいい〜! 宇宙服?」
「うん、わかる?」
「わかるよ〜」
みんながコスチュームを着てにやつきながら、それぞれ楽しそうに声を掛け合っている。
「お茶子のも宇宙服意識してる?」
「フフ、わかる?」
「わかるわかる」
お茶子のコスチュームを褒めながら、私は腰に固定したナイフを触って、ちょっとゴーグルの位置を直す。
「ヒーロー基礎学、戦闘訓練ってなにやるんだろうね」
「ねー、私ちょっと緊張するなぁ」
「でもコスチューム着たらさ、もうヒーロー! って感じしない?」
「するする」
お茶子と二人で笑いながら、グラウンドへ向かう。
すぐ目の前で、上鳴くんと切島くんがどつきあいながら歩いていて、ふと私たちを振り返る。
「ぶ、お前らお揃いかよ!」
「宇宙服コンビ爆誕だな」
「ていうかミョウジ、ナイフなんて使うんか」
「あ、うん。近接戦闘用に要望出したんだ」
「フーン……あ、てかお前の個性何? 俺は帯電」
「私は目だよ、近くまで来られたら不利だからさ」
もちろんサポート会社の配慮で刃は潰してある。授業中に間違って事故が起こらないようにするためだ。
「目か〜ってことは相澤先生とおんなじようなもん?」
「まぁそんな感じ」
そろそろ授業が始まる。私は上鳴くんの追及なんとか誤魔化せたことにほっとしながら、みんなの列に並ぶ。
「今日は屋内での対人戦闘訓練さ! 敵退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高いんだ」
そしてオールマイトはちらっと私に目をやってから説明を続ける。
まぁ先生方は私の事情知ってるよね。試されてるのかな。
アメリカンな設定を説明しながら、オールマイトは私たちにくじを引くように促す。
「21人いるからね、どこかの組は3人でやってもらう」
その代わり制限時間短くするよ! なんてオールマイトが言った。

私が引いたくじはB、轟くんと障子くんと一緒だった。
「よろしく」
当たり障りなく挨拶をしながら、すこし自己紹介。
その後緑谷くんと爆豪くんの接戦を見てから、私たちの番。
「障子、ミョウジ、外出てろ、危ねえから」
一瞬で建物ごと凍らせた轟くんが、ずんずんと奥へ進んでいく。
「私たちの出る幕ないね」
「おお……あいつすごいな」
個性を使えって言われなくて少し安心したのは秘密だ。
その後もみんなが個性を使いながら戦闘訓練を続けていく。

放課後私は図書館に向かっていた。
今日は個性のコントロール方法について調べたいことがあったからだ。
適当に物色して、借りる予定もないのに小説のフロアをぶらぶら歩いていると、また見覚えのあるツートンカラーの頭が見えた。
「轟くん」
「……ミョウジ」
「今日もなんか借りるの?」
二日連続だ、よっぽど読むのが早いんだろう。
「次何借りようか、悩んでた」
「次?」
まだ読み終わってないのに、もう次読みたいものを探してるのか。きっとすごい本が好きなんだ。
「あーじゃあ、この本とかおすすめだよ」
私はそう言いながら、棚から本を抜き出して差し出す。
「ミステリーなんだけど、完全犯罪を目指す男の子の話」
「へぇ」
轟くんの色違いの目が、興味深そうに瞬く。すっと手元から本が抜かれて、轟くんは矯めつ眇めつ本を眺めている。
「さんきゅ」
そのまま轟くんは本を持って、歩いていこうとする。
「あ、本置いてかないと」
「いや、せっかくだから今日借りる」
明日になったら貸し出し中とか、困るからな。
そう轟くんは言って、去っていった。
そんなに読みたいのかな、なんだか自分の好きな本を気になってくれて、ちょっと嬉しい。
私はそのまま手ごろな机を占領すると、今日出た課題を広げ始めた。
図書室で課題をやって時間を潰してから、空いた電車に乗って帰る。
ラッキーなことに、中学よりは図書室の開館時間も長いし、閉まるころには電車もちょうどいい空き具合だ。ついでに課題も終わる。一石二鳥だ。
私は轟くんに勧めた本の内容をちょっと思い出しながら、シャーペンを走らせ始めた。



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