電車を降りて、徒歩15分。
そこが私の新居だ。
「ただいま」
まだ2週間くらいしか経ってないけど、シンと静まり返った部屋の中はなんだかさみしく感じた。
"施設"の子供は、どんな事情があっても高校生になったら施設を出なければいけない。
それは私も例外ではなくて、中学卒業後すぐに住める部屋を探して施設を出た。
施設を出るときにすごく泣かれたのを覚えている。
雄英に合格したってわかったときも大騒ぎだったけど、行かないで、次はいつ帰ってくるの、今度はいつ会えるの、小さな子ほどよく泣いた。
机の上に飾ってある写真立てには、その時撮った写真が飾られている。真ん中で困ったように笑っているのが私で、涙で顔をぐしゃぐしゃにした子が私の膝の上に抱かれている。他にも何人か、職員の腕に抱かれてカメラの方に泣き顔を向けている。
比較的私と年齢の近い子達は泣かずともむっすりした顔でカメラを見ていて、この写真を撮った後に私に卒業祝いを渡してくれたんだった。
(懐かしいなぁ)
施設で過ごしたのは2年と少しだったけど、それでもいい思い出だった。
よく、私なんかに懐いてくれたと思う。
机の上に借りてきた本を並べて、背表紙を眺めた。
私に本を読む習慣ができたのは施設に来る前。施設に来たときは何も話さず、反応せず、一人でずっと本を読む子供だった。
制服を脱いでハンガーにかけて、部屋着に着替える。
消えない傷跡のついた皮膚を撫でる。ゴーグル越しに見た私の傷跡はケロイド状に波打って、引き攣れたままふさがっていた。
するするとお腹を撫でて、冷蔵庫へ向かう。
とりあえずご飯を食べよう。そしたらゆっくり寝て、明日は轟くんに謝ろう。
もう一度写真立てを振り返って、私はきゅっと顔を引き締めた。
明日も頑張るね、だから応援してて。



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