散らぬ花
△ ▽ △







「おーい名前、いるかー?」
「はあい」


東京は浅草、のんびりとした静かな昼下がりの空気の中に、威勢の良い声が響き渡る。木戸の向こうから応えた声に、法被姿の男がほっとした顔をする。


「すまんが急ぎでもう十本頼まれてくれるか!」
「はあ、また?」


からりと開いた木戸の向こうから、作務衣姿に呆れた顔の女が姿を現す。女の名は苗字名前、後ろで適当にまとめた髪を解きながら、首に掛けた手拭いで額の汗を拭った。


「若がまた全部燃しちまって」
「全くあのバカは」


法被姿の男は町を守る消防隊の隊員だ。名前が遠慮なく舌を打つのを見て苦笑する。


「若にそんな事言えんのは名前だけだな」
「そんなことないでしょ」
「とにかく頼むな!後で美味い酒届けさせっから」
「頼むよ」


はあ、と呆れた息を吐きながら、名前は薄く笑んでいる。木造二階建て、黒い瓦で屋根を葺いた頑健そうな建物は彼女ひとりが暮らす自宅であり、工房である。名前の仕事は纏を作る職人だった。

彼女の幼馴染みで第七特殊消防隊の大隊長である新門紅丸は、浅草だけでなく皇国一の実力を持つとされる煉合消防官だ。破壊王の異名を持つ紅丸の戦い方はまさしく鬼神の如しで、彼の火消し−−焔ビトの弔いは周りの物をとにかく壊し尽くしてしまう。発火能力で炎をまとった纏を自在に操作して使うので、毎度纏は燃え尽きてしまう。浅草には他にも職人がいるが、紅丸はこと好んで名前の作るそれを使った。歳が近い所為もあり名前と紅丸は兄妹のように仲が良い、とふたりを知る多くの人間は考えているが、実際は生来口の悪い無愛想な紅丸と負けじと食ってかかる性格な名前の衝突は絶えない。






まる三日後の夜、名前は頼まれた纏を作り上げて納品した足で街に出た。紅丸の纏は特別製だ。よく燃えて、しかしすぐには燃え尽きない。三日三晩工房に篭り切りで作り上げ、消防隊の隊員に手伝わせて詰所へ納品した。まともな食事も摂っていなかった名前は急に空腹を訴える腹をなだめつつ、馴染みの店の暖簾を潜った。

「おっ久しぶりだな名前ちゃん!」
「お腹すいた。大将カツ丼と焼き鳥」
「また篭ってたな?ほらさっさと座んな」
「あと酒ね、酒、冷奴も」
「はいよ、肉味噌乗っけてやんよ」


恰幅のいい大将の言葉に名前がぱあっと目を輝かす。彼女は無類の酒好きで、食べることも大好きだ。仕事を終えた今は作務衣ではなく着物姿だが、襦袢も着けずサラシに濃紺の単衣を羽織って帯を締めただけの男のような格好だ。


「また紅ちゃんの無茶振りかい」
「ほんとにあのバカは、あの纏一本作るのがどれだけ大変か分かっちゃいないんだからさ」
「そうは言っても、紅ちゃんが乗るのは名前ちゃんの纏だけだからなァ」
「…ま、仕事はきっちりやってるし」


一升瓶と簡素なコップで手酌しながら、名前は肉味噌のたっぷり乗った冷奴を箸で器用に口へ運ぶ。
大将の言う通りだった。紅丸は一度の弔いで幾本もの纏を燃やすが、彼が飛び乗って宙空を駆けるのはいつだって名前の作った纏だ。名前とて浅草に生まれ育った祭好きな人間だから、その派手な弔い自体は紅丸らしいと好もしく思っている。だから纏をいくら駄目にしたって、根っこから紅丸を疎ましくなど思ってはいない。ただ食ってかかってしまうのは、素直になれない性格の所為だ。

またからりと木戸が開く。


「アレ、噂をすれば影が差すなァ」
「ああ?」


そこに立っていたのは、いつものように口をへの字に曲げた不機嫌そうな顔の紅丸その人だった。


「大将、焼き鳥」
「あいよ」


珍しく一人でふらりとやって来たらしい紅丸は、カウンターの空いた席、つまり名前の隣に腰掛ける。


「纏受け取った」
「大事に使いなよ」
「…三日も掛かるもんかね」
「はあん?」


名前が眉根を寄せて紅丸を睨み付ける。当の紅丸はどこ吹く風で、大将が出した冷奴に醤油を掛けた。


「お前のやつ、美味そうだな」
「…紅丸にはやらない」
「大将俺のにも乗っけてくれよ」
「あー悪いな紅ちゃん、肉味噌それで終わりだ」


チッ、と行儀悪く舌打ちする紅丸を、名前はわずかに満足そうに眺めて溜飲を下げたらしい。二人を見ていた大将が苦笑する。


「先週の火事、勝原のおじさんだったね」
「アイツの寿司が食えねぇのは痛ぇな」
「随分派手だったって?」
「最期くれぇ派手でもいいだろ」
「寡黙な人だったからね」


先週、東の飲み屋街で起きた火災の事だった。焔ビト化したのは勝原鮨という長らく続く老舗の寿司屋の店主で、口数の少ない寡黙な頑固爺だった。紅丸と名前に紺炉を加えた三人で何度も通った店も、隣接する長屋も、全て燃え尽きてしまった。そこからさらに半径三十メートルに渡って破壊し尽くしたのはもちろん紅丸だ。黒い煙と舞い上がる粉塵から飛び出して華々しく散る花火を遠目に眺めながら、名前は唇を噛み締めていた。


「勝原のオヤジは、お前の先代と仲が良かったな」
「昔からよくウチにも来てたよ。おじさん子供がいなかったし、あんまり喋らなかったけど、私のこと可愛がってくれて」
「…惜しい奴を亡くしたな」
「まあ、今頃うちの先代と天国で乾杯してんじゃないかな」
「それもそうか」
「そうに決まってる」


名前が薄く笑んだ唇をコップに付ける。
先代は彼女の肉親ではない。紅丸と同じく、名前には親がいなかった。拾ったのがたまたま纏を作る職人だったから、彼女は読み書きよりも先に纏の作り方を目で覚えた。女の子らしい遊びにはまるで興味がなく、駆けっこや鬼ごっこ、河原で石を投げたり大人の目を盗んで櫓によじ登ったりばかりしていた。今でも女らしい華やかな着物はあまり好きではないままだが、育ての親だった職人気質の先代が名前の小さい時分に「名前の髪は浅草一綺麗だな」と褒めてくれたのが嬉しくて、今も名前は胸の下辺りまである髪を朝晩丁寧に手入れしている。


「お前の先代も、馴染みが増えて喜んでンだろうな」
「皆んなで飲む酒が何より好きだったからね」


並んで口角を上げる二人は、揃って数年前の夏の日を思い出していた。名前の育ての親だった先代が焔ビトになったあの日、腰を抜かして動けなくなった彼女を掻っ攫うように助けたのは、名前の作った纏に乗った紅丸だった。


「そうだお二人さん」
「「ん」」


珍しく喧嘩にならずにそれぞれ手酌で飲み進めている二人に、不意に大将が声をかける。


「来週は夏祭りだろ?二人で行ったらどうだい」
「急になに」
「俺ァ警らがある」


なにかと二人をくっ付けたがるのは、この大将に限った事ではない。紅丸と名前は鼻白んで溜め息を吐く。
誰もが認める浅草、いや皇国最強の男紅丸と頑固で男勝りな名前は、どちらも整った顔をしているから黙って並べば美男美女でお似合いだった。歳の頃も同じくらいだし、喧嘩っ早いのはお互い様だが気が合うのも本当だ。幼い頃から二人を知るような年寄り連中は、早く所帯を持てと何かと二人をせっついた。


「大体なんで私が紅丸と」
「俺だって祭の日まで名前のお守りは御免だな」
「誰が誰のお守りだって?アンタに世話された覚えはないねえ」
「ハッ、櫓から降りられなくなって鼻垂らして泣いてたのはどいつだっけか」
「何年前の話してんの?昔のことばっかり思い出すなんてジジくさい」
「後は長吉ンとこの次男坊に張り合って中洲まで行ったはいいが戻れなくなったなんて事もあったなァ」
「本当にアンタの頭は要らない事しか憶えてらんないね」


いつも通り口喧嘩になっていく二人を眺めて、大将は呆れた笑みを漏らす。本当に二人とも素直じゃないのだ。幼い頃自分よりずっと年長で強い相手に食って掛かって負かされる名前を回収しに行っては、きっちり先代の元まで送り届けるのはいつだって紅丸だったし、どんなに泣きべそをかいていても紅丸が現れると唇を引き結んで泣き止むのは名前だった。
紅丸が名前の作った纏にしか乗らないのも、彼女の仕事を誰より認めている証左だ。そして紅丸がそうする事を知って、決して仕事に手を抜かずより強く軽くと改良を重ねる名前が、誰より紅丸の無事を祈っていることも周知の事実だ。
誰が見ても二人はただお似合いなだけでなく、言葉の裏ではお互いを大切にしているのだ。



「それにあいにく、私の方は先約があるからね」
「えっ名前ちゃん、先約って、まさか男かい」
「なによ大将、私が男と約束してちゃおかしい?」
「いや、え、どこのどいつなんだよ」
「大将には教えてやんない」


ふふん、と名前が自慢げに顎を上げる。


「は、随分な物好きがいたもんだなァ」


すでに愉快王になりかけている紅丸が、コップの中の酒を一息に飲んだ。








△ ▽ △







一週間後の夕方、物悲しげな日暮らしの鳴き声を聞きながら、名前は姿見の前で帯の結び目を確認していた。浅草の夏祭りといえば、一年に一度の大祭だ。三日三晩執り行われるそれの、今日は最終日。祭の最後は華々しい大花火大会があり、老若男女問わず浅草が沸き立つ一夜である。
名前が今日一緒に行く約束をしているのは、町の呉服屋の男だった。先代を亡くした頃からは特に、名前のことを気に掛ける素振りが増えた。物静かで温厚な男で、誠実をそのまま表したような善人である。


「……ちょっとやり過ぎかな」


久しぶりにきちんと浴衣を着て帯を結んで、丁寧に髪を結い上げ簪を差して、唇には紅を乗せた。あまりめかし込むのも、と思いながら、浴衣に合わせていたらこうなったのだ、と誰にともなく言い訳を浮かべる。
何度も頭を過ぎる昔馴染みの不遜な男の顔を振り切るようにして、名前は待ち合わせ場所へ向かった。









「今日の名前さんは、とても綺麗ですね」
「え、いや、べつに…」
「照れてる顔は珍しいな」
「…揶揄わないでください」


真っ赤な空が端の方から深い紺色に染まっていた。賑やかな祭囃子と、出店の客寄せの声、浮き立つような人々の喧騒。その中で、名前は男と並んで歩いていた。


「一緒に行ってくれるとは、本当は驚いてたんです」
「そうですか?」
「名前さんはほら、紅丸さんと行くのかも、って」
「…私と紅丸は、そんなんじゃないので」
「もしかして、私にも少しは勝機があるのかな」
「はい?」
「ああいや、なんでも」


喧騒に紛れて聞き取れなかった声に、名前が顔を向ける。男は少し照れたように笑い返した。

長身の男と並ぶと、話すたびに首が痛くなりそうだった。紅丸なら丁度良いのに、なんて考えが過ぎって、名前はかぶりを振る。こんな時に何でアイツが。
出店を見て回ったりお宮に詣ったりしているうちに、すっかり夜になった。喧騒はより騒々しく、あちこちで陽気な大声や子供のはしゃいだ声が弾ける。火事の時とは違う鐘の音が鳴り響き、間もなく花火が始まる事を知らせる。


「疲れたでしょう。少し休みますか」
「ええ」


喧騒から少し離れた寺の境内の階段に、名前と男は並んで腰掛けた。祭提灯が薄ぼんやりと赤い光りを投げているだけのそこは静かだ。


「名前さん」
「はい」
「実は今日、あなたにお伝えしたい事があって」
「…はい」


名前は男の視線を正面から受け止める事が出来なかった。緊張して熱を持った、真剣な眼差しが痛かった。


「私は、ずっと前からあなたが、」


男は誠実で優しい善人だ。家柄も良く裕福で、けれどそれをひけらかしたりしない。己には勿体ないほどの良い人間だと、名前は思っている。けれど。


「名前さん、あなたの事が、」
「あの」
「…はい?」
「あの、いや、えっと…」


思わず遮った名前が言い淀む。どこかで大きな笑い声がこだました。


「何やってンだお前ら」


後ろから不意に低い声が落ちて、名前は肩を震わせた。


「……紅丸さん」
「アンタは呉服屋の」
「警らですか、ご苦労様です」
「ああ」


袂に片手を突っ込んで気怠げな顔の紅丸が二人を眺めて、それから浴衣姿の名前に視線を止める。暗がりの中でほんのわずか、紅丸の目が見開かれた気がした。


「名前か」
「なによ」
「いや、一瞬誰だかわからなかった」
「…悪かったわね、らしくない格好で」


名前が拗ねたように視線を逸らす。いつもなら喧嘩に発展する二人が、互いに押し黙る。口を開いたのは、呉服屋の男だった。


「じゃあ名前さん、お仕事の邪魔しちゃ悪いし行きましょうか」


名前の帯の結び目あたりに男の手が添えられるのを見て、紅丸が音もなく動いた。


「悪いが呉服屋の、コイツは返してもらう」
「え」
「は?」


一瞬のうちに、名前の身体は紅丸の腕の中にあった。背中に感じる紅丸の体に、名前の肩は緊張を帯びる。


「ちょっと紅丸、」
「うるせぇ黙ってろ」
「はあ?」
「呉服屋の」
「え、はい」
「アンタにゃ悪いが、コイツの相手はそこらの男じゃ務まらねェ」


名前の眉根に皺が寄る。呉服屋の男は、困ったように微笑んだ。


「…やっぱりそうですか。けど紅丸さん、言わせてもくれないなんて酷い事をするな」
「悪いな」
「大切にしてくださいね」
「…善処する」
「名前さんを狙ってるのは、何も私だけじゃありませんから」
「そいつは怖ェな」


頭の上で交わされる言葉に、名前が不可解な顔を浮かべる。何の話をしているのか、どうして自分は紅丸に抱き寄せられているのか。


「行くぞ名前」
「は?ちょっと待ってよ、」


紅丸は名前の手を引いてさっさと歩き出す。咄嗟に呉服屋の男を振り返った名前の手が、よせとでも言うようにまた引っ張られる。困ったような笑い顔の男に見送られ、名前は引かれるまま早足で歩くしかなかった。










「……それで、何だってのアンタ」
「……」


名前は火の見櫓の上で腕組みをして口を尖らせた。少し歩いたと思ったら急に辺りがぱっと明るくなり、炎だ、と気付いた時には身体がふわりと持ち上がっていた。発火した紅丸が名前ごと浮遊して、あっという間に高い櫓の上に下ろされたのだ。遮るもののない大輪の花火がよく見える。


「急に連れてこられて訳がわかんないんだけど」
「……」


紅丸の方は花火になんぞ一瞥もくれずに、いつものつまらなそうな顔で名前を見つめている。溜め息を吐いたのは名前の方だ。


「紅丸?」
「…そんなめかし込んでンのは、アイツのためか」
「アイツ?」
「呉服屋の」
「ああ…いや、べつに…」
「紅まで差して結構な事じゃねェか」
「…はいはい、どうせ似合わないよこんなの」
「そうは言ってねェだろ」


ドォン、と腹に響く花火の音。眼下の見物客たちが歓喜の声をあげる。櫓の上の二人だけが、まるで別世界の中にある。


「……なあ名前」
「なによ」
「お前の纏は、アレは良いよな」
「…まあ、そりゃそうでしょ」
「お前は昔っから、弱ぇくせに手が出るし喧嘩っ早いのに」
「…」
「仕事は丁寧だし、町の奴らからも好かれてる」
「…だから、なに」
「あー、なんだ、その、だからだな」
「…何?紅丸ヘンだよ」
「……お前が、誰かのモンになるのは嫌なンだ」
「…え、それってどういう、」


紅丸ががしがしと頭を掻く。それから視線を彷徨わせて、名前の目を見つめる。黒い瞳にまた花火が映り込む。


「他の男には、見せてやるのも惜しい」
「……は、」


見開かれた名前の目に散った花火が消えていく。今映るのは、紅丸だけだ。


「俺のモンになれよ」
「それ、は、」
「…だから、お前の事を好いてンだよ俺ァ。昔っから」
「へ?」


一拍置いて、名前が薄く開いた唇をそのままに頬を赤く染めていく。ドォン、とまた大きな音が響く。
紅丸は紅丸で、いつもと違う雰囲気の名前が初心な少女のごとく頬を染めていくのを眺めて、こちらも得体の知れない熱に身体を侵されていた。元来表情の少ない紅丸の変化は傍目には分からないが、付き合いの名前はその目尻がわずかに赤く染まっていることに気付いてしまう。


「お前はどうなんだよ」
「どう、って」
「俺のモンになる気はあンのか」
「……それ、は、だってそんな、急に、」
「名前」


名前が赤い顔で瞬きを繰り返す。一歩進んだ紅丸が、名前の顔の前までやって来る。


「お前は俺をどう思ってる」
「……私だって、」
「ん」
「紅丸が、その、」
「ん?」
「……バカじゃないの、なんで今日なの」
「誤魔化してンじゃねぇぞ」
「だから、私は」
「名前は?」
「紅丸が」
「俺が?」
「………す、」
「ん」
「……だからしつこい!」


赤い顔でいつものように怒り出す名前が、今日の紅丸は可愛くて堪らない。ふ、と口角を上げた紅丸の指が、名前の頬を撫でて行く。


「いい加減認めちまえ。俺の事が好きなンだって」
「………バカ」


いよいよ潤み始めた名前の目に映ったのは、大きな大きな尺玉を背に微笑みを浮かべて目を伏せる紅丸だった。今夜の締めくくりとなる色とりどりの花火と尺玉の連発に見物客が大きな歓声を上げるのと、二人の影が静かに重なるのとは同時だった。










散らぬ花







▽ すこし前 ▽



「若!大変だ!若ぁ!」
「何事だ喧しいな」
「名前が!男と!」
「…あ?」
「あー、俺も見たぜ、アレ呉服屋の跡継ぎだろ?」
「へえ、あの坊ちゃん名前みたいのが好みか」
「え、待てよじゃあ名前、呉服屋に嫁に行くのか」
「纏はどうすんだよ」
「バカお前らそういう事じゃねぇだろ!名前は若のモンになるって相場が決まってンだ!」
「え」
「あ」


「……なァ紺炉、名前は」
「若、名前もガキじゃねぇんだ。ぼんやりしてっと掻っ攫われちまう」
「アイツがか」
「名前は器量もいいし、喧嘩っ早いのは大抵若に対してだけだからな。さっぱりした性格のいい女だろ」
「……」
「呉服屋の跡継ぎなァ…優男だが金持ちで穏やかで、見た目も悪くない。しばらく前から目ェ掛けられてたみてぇだし、名前が絆されちまっても責められやしねぇなァ」
「………オイてめぇら。名前と呉服屋はどこで見た」
「俺が最後に見たのは傘屋のとこの路地に入ってって、………ってもういねェし」
「なあ紺さん、若ァ大丈夫かね」
「まあ、あとは若い二人に賭けるしかあるめェ」
「全く若も素直じゃないからなぁ」
「それについては名前もいい勝負だけどな」
「違いねェ」




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -