学校の中はとても広くて、大きな人と代わるように現れた女の先生に連れられ沢山の同じ制服を着た人が集まった大広間にやって来た。
上級生達の方へ顔を向けて一列に並ばされ、先生は私達の前に椅子とその上に、魔法使いが被るようなとんがり帽子を置くと突然帽子がひとりでに動き出し、更には歌い出し私はぽかんとその光景を眺めていた。
歌の中で聞こえたグリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフという単語は、大広間に来る前に女の先生が言っていた四つの寮の名前で、ルーピンくんによるとこれから組み分けをするらしい。名前を呼ばれたら前に出て椅子に座って帽子を被ればいいとのことだ。あの帽子が寮を決めるんだ。寮なんて正直どこでもいいけど、出来ればルーピンくんと一緒がいいな。
そうぼんやりと考えながら、大広間に響き渡る帽子の声を聞いていた。

「ミョウジ・ナマエ!」

とうとう自分の名前を呼ばれてビクリと肩が震えた。
言われた通り、前へと進み出て椅子に座ると、女の先生に帽子を被らされて目の前が真っ暗になった。

「グリフィンドール!」

一瞬の沈黙の後、直ぐに頭上から聞こえた帽子の声に続いて、わあっと歓声が沸き上がるテーブルが私が組分けされた寮なのだろう。
明るくなった視界に椅子から降りてグリフィンドールのテーブルに行ってそそくさと空いていた一番端の席に座る。隣に座っていた同じ新入生の子が声を掛けてくれたが、周りが騒がしくてよく聞こえずに曖昧に笑うしかできなかった。

その後も組み分けは続き、同じグリフィンドールに組み分けされた人達には周りを真似て拍手で迎える。

「ブラック・シリウス」
「グリフィンドール!」

拍手をしようと小さく手を叩けば、思いの外大広間に響いて、驚いて周りを見回せば、皆驚いたように椅子に座った男の子を見ていた。男の子は眉を寄せて居心地悪そうに椅子から立つとグリフィンドールのテーブルに近付いて空いている席にどかりと座る。
すると次第に周りがざわつき、私はよく分からないまま首を傾げて、最後にもう何度か手を叩いて視線を前に戻そうとした時、ふとその男の子と目が合った気がした。

新入生全員の組分けが終わると、校長先生の言葉と共に沢山の料理がテーブルの上に現れ、皆が嬉しそうに料理を口に運ぶ。私はそんな光景にすら戸惑ってしまい、皆よりやや遅れて近くにあった料理をお皿に取ってみる。家でいつも食べていたような白米やお味噌汁なんかはある筈もなく、所謂洋食しかそこには並んでいなくて、本当にこれからは此処で過ごして行くのだなと実感した。
クリスマスや夏には家に帰る事が出来ると兄から聞いたが、私にはまだまだ遠い先の事のように感じるし、結局は此処で過ごす時間の方が長いのだと頭が良くない私でもわかっているのだ。
まだ学校に来て一日も経っていないというのに、もうホームシックになってしまったのだろうか。
賑やかな大広間で、私だけ浮いているような気がして、フォークを握る手に力を込めた。

暫くして、寮に行くことになって先頭を歩く上級生に皆が着いて行きながら、私はやっぱり最後尾を一人で歩くのだ。前を歩く子達はもう既に打ち解けあい、私も友達であるルーピンくんと同じ寮にはなれたけれど、前の方を歩くルーピンくんに視線を向けると男の子達と楽しそうに談笑していて、なんだか寂しい気持ちになって目を逸らした。

酷く長く感じた道を進んで、やっと着いたグリフィンドール寮の中の、女子寮へと続く階段を登る。扉の横に掛けられたプレートのようなものには名前が記されているようで、恐らく名前がある扉が私の部屋になるのだろう。
基本は四人部屋なのか、四人の名前が並んでいるところがほとんどで、皆はもう自分の名前を見つけて部屋の中へと入って行った。
私はというと一番奥の扉を開いて溜め息を吐く。扉の横に掛けられたプレートには私一人の名前しか記されていなくて、四つのベットがある部屋の隅には私の荷物が今の私と同じように寂しく置かれていた。