あの日から授業に行くのが嫌で、でも休むわけにはいかず重い足を必死に動かした。
勉強だって、正直もうやめたいしやりたくない。だけどどんなに嫌でもしないといけなくて、やめて授業に遅れるのはもっと嫌だから。

スネイプくんの言った、あの言葉が頭の中をぐるぐると回る。わかっている、わかっているのだ。私は弱虫で、頭も悪くて、魔法なんか使えやしないこと。そんな自分が大嫌いだったのだから。自分の意見も言えず嫌な事でも押し付けられたら断ることなんて出来ない。ただ笑って頷くのが私という人間なのだ。私の歩いてきた道なのだ。なんて情けないのだろう。

ズキズキと頭が痛む。こんなことばかり考えているからだろうか。最近物凄く気分が悪い。

「朝、かぁ…」

窓から射し込む日の光が眩しくて目を細める。寝起きでぼんやりとする頭を必死に動かして体を起こそうと腕に力を込める―――が、力が入らず私はそのままベットに倒れ込んだ。

「あ、れ」

倒れ込んだまま目を見開く。もう一度体を起こそうと腕に力を入れると次はちゃんと起き上がれた。
なんだったのだろう…?首を傾げながらも時計に目をやって慌てて立ち上がる。もう授業に向かう時間だ…!

洗面所に向かい、顔を洗って、歯を磨いて、髪を整える。制服に着替えてから机に広げたままの教科書を鞄に仕舞って部屋を飛び出した。実に三分の出来事である。

今日最初の授業はなんだったろうか。談話室へと続く階段を降りながら頭の中で時間割を思い浮かべる。

「あれ、ミョウジ?」
「う、え、る、ルーピンくん」

階段を降りた所にルーピンくんが眠そうに立っていた。「おはよう」と言うルーピンくんに、部屋から走ってきた為、乱れた息で「おはよう」と返せば、何故か眉を寄せて首を傾げられた。

「…ミョウジ、大丈夫?なんか顔色悪いけど…」
「え…?だ、大丈夫だよ…?」

ルーピンくんの言葉に今度は私が首を傾げる。別に今のところ、どこも痛くないし異常はない。そう言えばルーピンくんは「ならいいけど…」と少し納得いかなさそうに言った。
そ、そんなに顔色悪いのかな…?
手で顔を触ってみるもわかる筈なくて、そういえば時間割が思い出せないままである事に気が付き「今日の授業って、」と口を開いた時だった。階段の上から騒がしい声が聞こえてきてびくりと体が震える。

「リーマス!待たせたね!シリウスが遅くってさぁ」

ルーピンくんといつも一緒に居る人達だ。授業でも賑やかで目立つ人達だったから覚えていた。
…私、邪魔、だろうな。
そう思いルーピンくんに「じゃあ私、行くね」と背を向けて寮の出入り口に駆ければルーピンくんに呼び止められ、恐る恐る振り返る。

「今日の最初の授業は飛行訓練だよ」

そう言って微笑んでくれたルーピンくんになんだか嬉しくなってお礼を言ってから寮を出た。

思い出した。ルーピンくんが言ってくれた通り今日の最初の授業は飛行訓練だ。昨日授業が終わって部屋に帰るときに談話室に張り紙が貼られていたのを思い出す。

飛行訓練って、なんだろう。飛ぶ訓練、だよね?どうやって飛ぶんだろう。
飛行訓練が行われる校庭へと向かいながら考える。
まさかいつだか兄がやった魔法の事だろうか。でも兄はあれを姿現しと言っていたし…うーん。
うんうん考えているといつの間にか着いてしまった。

チャイムが鳴って先生の指示で箒の横に整列し、先生は箒の上に手を掲げ「上がれ!」と言った。すると箒は勢いよく浮き上がり先生の手に納まった。な、何が起こったんだ。

状況がわからないまま呆然としていると、先生は何かを指示し周りの皆は先生と同じ様に箒に手を掲げた。同じことをすればいいのだろうか。箒に手を掲げてみる。でもこれ、普通に手で取ればいいんじゃ…?
そんな疑問を抱きながら、もう一度周りを見る。

「あがれ!」
「上がれ」

皆次々に箒を手に持っている。でも中には出来ない人もいるようで、上がれと言っても箒が少ししか動かない人もいるようだ。

…これも、魔法なのかな。
そう思うとなんだか不安になってきて、手が震える。
魔法なんか、使えないのにな。

ズキズキと頭が痛い。目の前が歪んでくる。

「ぁ、上がれ」

箒は上がらない。それどころかぴくりとも動かない。
―――ああ、やっぱり。
周りはもうほとんどの人が出来ている。どうしよう。どうしよう。
きょろきょろと周りを見回してみると視界にある人が映る。

「あ…」

あの人だ。魔法薬学の時の、彼、だ。

「足手まといだ」

頭の中であの言葉が繰り返される。
先生が何かを言って箒を上げれなかった人も直接手に持つが私は動けずにいた。

「3数えたら地面を強く蹴って飛びなさい。飛んだらすぐ止まること。いいですね? ―――3…」

飛ぶ?何それ。出来るわけないじゃん。無理だよ。無理なんだよ。
私は魔法なんて――…

頭の中がぐちゃぐちゃになる。気持ち、悪い。

「―――2……―――1」

目の前が真っ暗になって全身から一気に力が抜けて崩れ落ちる。その感覚が、何故だか酷く懐かしく感じた。