初めて人が目の前で死ぬのを見た翌日、私はまた朝から家に居たラッセルさんとランピーさんに連れられて公園に来ていた。

「ランピーとラッセルだー!」

嬉しそうに駆けてくる子供達の姿に私は酷く見覚えがあった。思い出すのは昨日の事で、眉を寄せているとラッセルさんに大丈夫だからと肩を押された。
そうなると今まで後ろでこそこそしていた私は前に出るわけで、子供達にも不思議そうに見られる。
何を言えばいいのかわからず、視線を彷徨わせていると、三人のうちの一人の柔らかそうな金髪の可愛らしい男の子が「あっ!」と何かを思い出したような声を上げた。

「昨日ハンディーと一緒にいた人だ!」
「あ、うん。最近ここに来たなまえっていうの。よろしくね」
「僕はカドルス!ねえねえ一緒に遊ぼう!」
「ギグルスよ。よろしくね、と言いたいところだけどカドルスは私のよ」
「トゥーシーだ。よろしく」

カドルスくんを始め、三人共笑顔で自己紹介をしてくれて取り敢えずほっと胸を撫で下ろす。
ピンク色の髪の毛を揺らして頭に可愛らしい赤いリボンを着けた美少女はギグルスちゃん。薄藤色の髪の毛に頬にそばかすがあるトゥーシーくん。よし覚えた。
ギグルスちゃんの最後の言葉が少し気になり、興味本位で尋ねてみる事にする。

「えっと、カドルスくんとギグルスちゃんはどういう関係なのかな?」
「親友!」「恋人」
「そ、そうなんだ」 

なにこの食い違い。果たして大丈夫なのだろうか。苦笑を浮かべて次の言葉を探していると、カドルスくんが「一緒に遊ぼう!」と手を繋いできて、ギグルスちゃんの目がカッと大きく開かれた。こ、これはまずい…!

「あ、あのカドルスくん、離してくれると嬉しいな」

このままではギグルスちゃんと良好な関係を築けなくなってしまう。女の友情は厄介だって私知ってる!

「なんで?嬉しいでしょ?」
「いや、…え?」

不思議そうに首を傾げるカドルスくんに私はカドルスくんの発言に首を傾げるしかない。どういう事だろう。嬉しい…?カドルスくんと手が繋げて嬉しい?いや、まあ、確かに嬉しいかもしれないけども、自分で言うのかそれ。
微妙な顔をしていればカドルスは「えっ」と大きい目を更に見開いて、信じられないといった表情で私の手を握る力を強めた。

「かっ、カドルスくん痛い」
「なんで?僕と手繋げて嬉しいでしょ?だってなまえは僕のことが好きだもんね?もしかして僕のことが嫌いなの?違うよね?ね?」

ぎりぎりとその小さい体からは信じられない力で絞められる手が痛くて涙が滲んでくる。
まるで自分が愛されないなんておかしいと言いたげなカドルスくんの目はなんだか焦っているようで訳が分からない。カドルスくんの隣で笑いながら此方を見てくるギグルスちゃんにも恐怖が増して、声が上手く出せなくて、視界は涙で揺れている。
その時だ。グイっと後ろから誰かに抱きしめられて、見上げればランピーさんがへらりと笑っていた。

「そういえば俺達これから用事があったんだー」
「悪いな皆。また今度遊ぼうぜ」
「え、あ…」

それを聞いてカドルスくんが力を緩めた隙にラッセルさんが私の手を優しく取って、ランピーさんに何かを合図するとランピーさんは行こっかと指を絡ませた。今だけは、それにとても安心して涙が流れて服の袖でごしごし拭った。

「あー駄目だよ。赤くなっちゃうから」
「す、すみません」

腕を掴まれて、ランピーさんは私の顔を覗き込んで「あはは兎みたーい」と赤くなっているのであろう瞼を指で撫でた。

「ごめんねー、すぐ助けなくて。もう大丈夫だからねー」
「助かりました…ありがとうございます」

そこで段々と冷静を取り戻せてきて、ふと、ランピーさんとの距離のかなり近い事に気が付く。昨日の朝食の席でのやり取りを思い出して思わず身を引こうとするが、今度は腰に腕が回ってきてランピーさんは「なんで離れちゃうのー」と笑った。
いやいやいやいや、近いんですって。なんだこのまじでキスする五秒前みたいな状況は。月9じゃないんだから。
右手はランピーさんに掴まれていて左手はさっきので痛めて使えない。誰かあああ!

「なに、お前らそういう関係だったの?俺がせっかくあいつら宥めてきたってのに」
「ら、ラッセルさん!いいから早く!助けてください!」

ランピーさんの肩越しからやって来たラッセルさんは「これだからリア充は…」とかなんとかと呟いているが、私の焦った声に渋々ランピーさんを引き剥がしてくれた。
ラッセルさんは一人で公園に残ってカドルスくん達に上手く話しといてくれたらしい。そういえばいないと思った。
お礼を言えば、逆に申し訳なさそうな顔をされて謝られた。

「カドルスに悪気はないんだ。歳もお嬢さんと近いっぽかったし仲良くなれると思ったんだが…逆に怖い思いをさせて悪かったな」
「いえ、ラッセルさんの気持ちはすごく嬉しいです。確かに少し驚きましたけど、悪い子ではなさそうでしたし…」

むしろ私の方がせっかく二人が紹介してくれたのに、失礼な態度をとってしまった気がしてならなくて申し訳ない。
そう言うと何故かラッセルさんは無言になってしまい、その沈黙を壊すようにランピーさんの腹の音が鳴り響いた。

「ほんの数十分前に朝食食べましたよね…?」
「育ち盛りだからかなぁ」

いや育ち盛りでも米三号も食べたら流石にこんな短時間で空腹にならないだろう。というかそれ以上育ってどうするのだろう。身長とか、かなり大きいよなこの人。分けて欲しいくらいだ。

「俺は大きさなんて気にしないよー」
「おい今どこ見て言った」
「お二人さん、痴話喧嘩はそこら辺にして近くの店にでも入ろうぜ」
「じゃあランピーさんの奢りで」

冗談で言ったつもりだったが本当に奢ってくれた。勿論、私はお金なんて一銭も持っていなかった訳だけど…。

店を出た後ランピーさんに滅茶苦茶頭を下げた。