四人で仲良く(?)朝食を食べ終えると、ランピーさんはこれから仕事があると言い、ラッセルさんはしっかりと後片付けをした後、晩飯調達をしてくると帰ってしまい、私はハンディーさんに街の案内をしてもらっている。
そこそこ広い街のようでお店も結構あるらしく、全部の場所を案内され終えた頃にはすっかり日が暮れてしまっていた。

「ハンディーだ!」

道路を挟んで向こう側から無邪気な子供の声が聞こえて見てみれば、子供が三人、此方を指差して来ようとしている。その姿を微笑ましく見守っていれば、道路の真ん中に差し掛かった辺りで、視界の端に何かが映り、次の瞬間、私は目を疑った。

目の前を通りすぎて行くトラック。鈍い音が耳に届き、何か熱いものが頬に飛び散ってトラックはそのまま走り去って行く。頬に付いた何かに触れて見れば、ぬるりとした感触と真っ赤な液体に頭が酷く混乱する。
今、あの場には、子供達が居た筈だ。でも、あの子達が居た所にはこの飛んできた真っ赤な液体と同じものがあって、あの子達はどこにもいない。

「このタイミングでかよ…」
「…ぇ?」

隣から呟かれた言葉の意味が理解出来ず、ハンディさんの方を見れば、道路の少し先の方に目を向けていて、それを辿ると子供達“らしき”姿を見つけた。いや、もうそれは姿なんてものじゃなかった。
ゆっくりとそれに歩み寄る。後ろからハンディさんの呼び止める声が聞こえたが、それを無視し近付く度に嫌な臭いがするそれを見て、込み上げてきた嘔吐感に口元を手で覆ってその場にしゃがみこむ。

それはもう肉の塊だった。かろうじて衣服や髪で人間だったとはわかるが、顔面は目も当てられない程ぐちゃぐちゃで、手足なんかはありえない方向に曲がっている。

大丈夫かと追い掛けてきて声を掛けてくれるハンディさんは、何故そんなに冷静で居られるのだろうか。そこで気が付く。
周りにいる人達が、まるで死んだのが当たり前かのような目で此方を見ているのだ。なんだかそれが怖くて涙が出そうになる。

「あれ?お嬢さんにハンディ、どうしたんだ?」
「ラッ、セルさ…」

釣竿を持ちながら不思議そうに此方を見てくるラッセルさんに何故だか安心して抱きつけば、ラッセルさんは酷く驚いた顔をして「うおぉ!どうした!?どこでフラグ立った!?」とか叫んでいるが、私はラッセルさんの服にしがみついて涙を流した。それを察したのかラッセルさんが私の背中を優しく叩きながらハンディさんに何があったのか問いかける。ハンディさんが今どんな顔をしているのかはわからないが、二人は言葉を交わして、全部理解したラッセルさんは私に「怖かったな、もう大丈夫だからな」と優しく言った。

「その笑顔に私は胸が高鳴るのに気づき、私はもしかするとラッセルさんが…「色々と台無しです。少し見直そうと思ったのに本当に残念な人ですよね」

今絶対そういう雰囲気じゃなかった。どっちかというとシリアスだったんだけど。本当にラッセルさんは色々と残念だ。呆れてもう引っ込んでしまった涙に、ラッセルさんは「もう大丈夫そうだな」と笑いながら私の頬を服の袖で拭った。

「もしかしてさっきのは私を元気付けるためにやったのでは…!そう考えるとまた胸が「もういいです。もうツッコミませんから」
「酷いな」

ラッセルさんから離れてハンディさんの元へと戻ればハンディさんは何かを察したように眉を寄せて笑った。

「場所を変えるか」

そう言ったハンディさんに私は頷いてハンディさんの後を付いて行く。すると後ろから呼び止められて、振り向けばラッセルさんが真剣な顔をしながら「ハンディは誰よりもお嬢さんの事を気にかけてるよ」と言って去ってしまった。その背中に頭を下げてハンディさんを追い掛ければ、昨日私とハンディさんが最初に会った場所に着いた。

「隠すつもりはなかったんだよ。今現在どこまで気がついてるんだ?」
「勘、ですけど…この街は人が死ぬのは何時ものことで、何かがあるから死んでもどうともしない、これが私の考えです」

これならあの時のハンディさんの言葉と冷静さや、街の住人達の当たり前のような視線も納得できる。言い終えれば、ハンディさんは目を見開いて私を見ていた。

「鋭いな。ほとんど正解だよ。この街ではなんでか人がよく死ぬんだ」
「まだ何かあるんですよね?」
「あぁ、死んでも次の日には自分家のベッドに寝てるんだ」
「生き返るってことですか…?」

頷くハンディさんに小さく息を吐いてお礼を言えば、なぜかまた驚いた顔をされた。

「怖くないのか?」

そう言ったハンディさんの顔は不安そうで、あぁ、この人はこの街が大好きなんだなと理解する。
怖くないと言えば嘘になる。はっきり言って信じられないし、さっきのを見てハッキリ怖くないとは言えない。
ハンディさんはきっと、この街を嫌って欲しくなかったんだ。

あの子供達の顔は本当に楽しそうで、幸せそうだった。きっとこれまでだって、同じような目に遭ってきたんだと思う。それでも笑っていたのだ。だったら、いいんじゃないかと思ってしまう。

「ハンディーさんは怖いですか?」
「え?いや、もう慣れたし…」
「じゃあ私も早く慣れることにします」

そう言って笑ってみせれば、ハンディーさんは少し変な顔をした後、唇を動かしたが風の音で聞き取る事が出来なかった。「何か言いましたか?」と聞いたが、首を横に振られてしまい、それ以上は問う事が出来なかった。