新入りがやって来た。
その事はそれほど広くなく、住民も多くないこの街に、直ぐ様広まった。

第一印象は“普通”だ。悪いが正直、特に何か優れている訳でも無さそうだし、ランピーやラッセル、ハンディーなんかと並んでいるとその普通さが更に目立っている気がする。
…まあ、俺も人の事なんて言えないのだろうけど。

この街に来る前、俺には兄と弟が居た。出来の良い二人だった。両親はそれなりに厳しい人で、そんな出来の良い二人に挟まれた俺が何の才能も持っていないのだと知ると呆気なく見放した。
それは別に、縁を切られただとか、いない者扱いをされたとかではなく、家がそこそこ裕福だった事もあってか、欲しい物は与えてくれたし、誕生日には皆でケーキだって食べる。だけど、それだけだ。それだけなんだ。兄のように、勉強をしろと怒られた事は、一度も無い。弟のように、痛かったねと慰められた事は、一度も無い。えらいねと褒められた事は、一度も無い。
まるで、義務のように接していたのだと、後になって気付いた。いや、まるで、ではない。義務だったんだ。そこに、きっと本心なんて無かった。それは、見放されたも同然じゃないか。
漫画で言うなら主役は兄と弟で、俺は脇役。それはきっと、この街に来てからも何も変わらない。ただ主役が兄と弟から、カドルスに変わっただけ。だけど俺は主役になりたかったし、だからキラキラ輝いてるヒーローが好きなのだ。
俺は、ヒーローになりたかった。

その為に、悩んでる奴がいたら相談に乗ってやったし、いじめられてる奴を助けてやったこともある。自己満足でもあったのかもしれない。俺はすごいんだ、脇役なんかじゃないんだって皆に見せつけてやりたかったのかもしれない。それでも礼を言われるのは嬉しかったし、カドルスに「すごいね」と言われる度に胸が満たされるのも感じた。
…自分のことばかりだったんだ。だから気付けなかったんだ。あいつの変化に。

「どういうこと、だよ」

カドルスの両親がいなくなった。それを知ったのは夜、カドルスが突然俺の家に訪ねて来た時だ。

「パパとママがいなくなった」

カドルスは笑っていた。

「きえちゃったの。きえちゃった。みんな、きえちゃった」
「お、おい、カドル「トゥーシーは、僕を一人にしないよね」

あの時俺は、カドルスに何をしてやれたんだろう。俺は何て言ってやればよかったんだ。なにがヒーローになりたいだ。友達の、親友の変化にすら気付いてやれなかったんだ。俺は、何も出来なかった。

「は…?あの新入りに?」

カドルスと約束している為、途中で会ったギグルスと一緒に公園へ向かう。向かいながら話す話題はつい最近やって来た新入りの話だ。

「そう、話したの。でも詳しい事は話してないわよ。…私も知らないし。でもなまえはあの時の事、もう気にしてないみたいだったわ。いつまでも過去の事考えてても仕方が無いって」
「それは…カドルスの事はどうでもいいって事か…?」
「知らないわよ。でもそうだったとしても、これまでと何も変わらないだけじゃない?」

あの日のカドルスの行動は、俺達にとっては見慣れたものだった。これまでカドルスの事を拒否した奴等にも、カドルスは同じような事をしていたからだ。そいつらは表面上だけは“人気者”のカドルスに媚び、裏では罵り、そうする事でカドルスの癇癪を上手く回避していた。あの新人も、同じか、それとも…。
後者だと知るのは、目の前で赤く染まるギグルスを見届けた数分後の事だ。