やっぱりか。
心の中でそう呟いて、私は意味もなく缶を見つめる。


「ギグルスから聞いた。カドルスの事、聞いたんだろ?」

「まあ…」


なんとなくは。
昨日ギグルスちゃんから聞いたカドルスくんのこと。
正直私はカドルスくんの事を好きにはなれない。
むしろ恐怖の対象になっている。
かと言ってまだよく知りもしないから嫌いにもなれないのだけれど。


「カドルスがああなったのには、ちょっと訳があるんだ。」


聞きたいか?そう続けたトゥーシーくんに私は少し悩んだ末小さく頷く。


「俺とカドルスは幼馴染みでさ、カドルスは…まああの容姿だし、なんというか愛されて育ったんだ。
明るくて誰にでも気軽に接する、そんなカドルスは誰からも愛されてた。
それがある日事件が起こった」

「事件?」


聞き返すとトゥーシーくんは静かに頷く。
ごくりと唾を飲み込んで、缶を握る力を少し強めた。


「カドルスの両親がいなくなった」


目を見開いてトゥーシーくんを見る。
トゥーシーくんは缶コーラを飲んで、飲み干したのかそのまま離れた所にあるゴミ箱に缶を投げ入れた。
ナイッシュー、だ。


「この街のことは知ってるんだろう?どんな場所で死んでも、必ず次の日には自分のベッドの上にいるんだ。なのに」

「カドルスくんの両親は見つからない……?」


トゥーシーくんは頷く。


「街の外に出たのか、街の外で死んだのか……まあ、いきなり現れるのもいなくなるのもこの街ではよくあることみたいだし、だからどうって訳ではないんだけどな」

「え?いなくなることもあるの?」


初めて聞く事に思わず聞き返せば、トゥーシーくんはきょとんと目を見開いた。
え、な、なに。


「聞いてない、のか?」

「なにを?」

「お前の……いや、話に戻るか」


なんなんだ。
そこまで言われたら気になるじゃないか。
なんて内心文句を垂れながら眉を寄せるが、トゥーシーくんは話を続ける。


「最初に言った事覚えてるか?」

「え?……あー…カドルスくんが愛されて育ったってこと?」

「そうだ。カドルスは愛されて育った。両親からは特にな。そんな両親いきなりがいなくなって、それからなんだよ。カドルスがああなったのは」


両親がいなくなってああなった。
その言葉に私は少し考えて出た答えに眉を寄せた。


「待って、それじゃまるで大好きな両親がいなくなったからグレたただの子供みたいじゃん」

「これだけだったら、そう思うよな…」

「まだ、何かあるの…?」


俯くトゥーシーくんに私は眉を寄せて遠慮がちに聞く。
トゥーシーくんはゆっくりと顔を上げると、


「いや、別に何も」

「ねえのかよっ!!」


けろっとそう言い放ったトゥーシーくんに思わずベンチから立ち上がる。
一気に雰囲気変わっちゃったんだけど。
あきらかに他に何か知ってるような言い方してたのに!


「俺だってカドルスの全部を知ってる訳じゃない。カドルスは話してくれないし、無理には聞けないだろ…」

「それは……そう、だね」


結局カドルスくんがああなった理由はわからずじまいか。
それでも結構な収穫はあったから良しとしよう。

さて、と荷物を拾いジュースを飲み干してトゥーシーくんがやったように缶をゴミ箱に投げつけるとそれは中に入ることなく地面に落ちた。


「へたくそ」

「うっせ」



(130427)次回はとある人視点のお話。