ギグルス親子の話に散々付き合わされた翌日、私は公園の茂みにて息を潜めて姿を隠していた。
公園には私の名前を呼びながらあちこち探し回っているカドルスくんがいる。


「なまえー!どこにいるのー?ねえかくれんぼー?」


やっぱり今日は引きこもってればよかった。
なんて後悔してても今更遅い。

猛烈にチョコレートが食べたくなった私はスーパーまで財布を片手に走ってそんな自分へのご褒美かのように奮発して一番高いチョコレートを購入した。
ちなみにお金はハンディーさんの仕事を手伝った時に貰ったものである。
そろそろ本気バイト探そう。
軽くなった財布にそう誓った。

まあそんな感じで一刻も早くチョコレートを口にしたかった私は公園に入った。
そうだ、これがいけなかったんだ。
このまま家に大人しく帰っていれば…!


「あー!なまえだ!遊ぼう!」

「げ」


子供特有の声に振り向いて見れば、カドルスくんが一人でブランコに乗りながら手を振っていた。
よし、逃げよう。
そう決意して近くの茂みに上手い具合に隠れた訳なんだけど、これからどうしよう。
カドルスくんが諦めてくれればいいんだけど。
そう願って茂みから顔を覗かせると、そばかすの顔と目が合った。
あ、終わった。


「あ、トゥーシー遅い!僕を待たせるなんてありえない!」

「あ、あぁ…途中ギグルスが降ってきたランピーが乗ったトラックに潰されて…」


ランピーさああああん!
何やってんだよおおお!
私としてはトゥーシーくんよりギグルスちゃんの方に来てほしかったんだけど!
ギグルスちゃんなら上手くカドルスくんの気を逸らしてくれたかも……いや、ギグルスちゃんカドルスくんの事好きだからむしろ私の居場所を……
どっちにしろ私終了じゃんか。


「トゥーシー、なまえ見なかった?いきなりいなくなっちゃって」

「あー…」


ちらりとトゥーシーくんが此方を見る。
トゥーシーくんの目に映る私の顔はきっと死んだ魚のようになっているにちがいない。
こうなったら今からでも遅くない、逃げよう。


「見た。向こうで」

「え」


思わず出た声に慌てて口を塞ぐ。
だってトゥーシーくんが向こうと言いながら指差した場所は私のいる逆の場所だったからだ。
僕追い掛けてくる!と言いながら去っていくカドルスくんの背中を見つめていると此方を見ていたのかトゥーシーくんと目が合った。


「あ、ありがとう!」

「か、勘違いすんなよ!別にお前の為とかじゃねえからな!たまたまお前に話したい事があったから丁度いいと思っただけだ!」


ツンデレ…。
慌てて否定するトゥーシーくんの頬は少し赤い。
可愛いなぁと思いながら笑っていると笑うな!と怒られてしまった。


「それで、話したい事って?」

「……………」


そう聞けば、トゥーシーくんは真剣な顔になって黙り込んでしまった。
とりあえず座ろうかと声をかければ頷いて二人でベンチに座る。
がさがさと買い物袋を漁って家で飲もうと買っておいたコーラを二本取り出して一本トゥーシーくんに渡す。
なかなか開かないリングプルに力を入れて指で引っ張る。


「……カドルスのことなんだ」


がぽん、リングプルを引っ張った音がやけに響いたような気がした。



(121209)