結局ランピーさんは仕事があるからとラッセルさんは晩飯調達してくると二人して帰ってしまい、私はハンディーさんと二人で歩いていた。


「ハンディーだ!」


道路を挟んで向こう側から無邪気な子供の声が聞こえて見てみれば子供が3人此方を指差して来ようとしている。
そして次の瞬間、私は目を疑った。
目の前を通りすぎて行くトラックに吹き飛ぶ子供。
トラックは気づいていないのかそのまま走り去って行く。

慌てて吹き飛ばされた子供に駆け寄って思わず顔を背けた。
ぐちゃぐちゃなもう顔さえも認識できないそれは見ていられるものではなかった。
ハンディーもやって来て隣からこのタイミングでかよと聞こえてその言葉の意味はわからないが、込み上げてきた嘔吐感に口元を手で覆ってその場にしゃがみこむ。
ドラマなんかじゃ比にならない死体は私の吐き気を誘うのには充分だった。
大丈夫かと声をかけてくれるハンディーさんはなんでそんなに冷静で居られるのだろうか。
そこで気づいた。
周りの人達が、まるで死んだのが当たり前かのような目で此方を見ているのだ。
なんだかそれが怖くて涙が出そうになる。


「あれ?お嬢さんにハンディー、どうしたんだ?」

「ラッ、セルさ…」


釣竿を持ちながら不思議そうに此方を見てくるラッセルさんになぜか安心して抱きつけば、ラッセルさんはうおぉ!どうした!?どこでフラグ立った!?とか叫んでいるが、私はラッセルさんの服にしがみついて涙を流した。
それを察したのかラッセルさんが私の背中を優しく叩きながらハンディーさんに何があったんだ?と問いかける。
暫くして理解したのか、あぁなるほどと頷くと私に怖かったな、もう大丈夫だからな、と優しく笑った。


「その笑顔に私は胸が高鳴るのに気づき、私はもしかするとラッセルさんが…「色々と台無しです。少し見直そうと思ったのに本当に残念な人ですよね」


今なんかいい雰囲気だったというのに本当にラッセルさんは色々と残念だ。
顔はいいのに。

呆れてもう引っ込んだ涙にラッセルさんはもう大丈夫そうだなと笑いながら私の目を親指で拭った。


「もしかしてさっきのは私を元気付けるためにやったのでは…!そう考えるとまた胸が「もういいです。もうツッコミませんから」

「酷いな」


ラッセルさんから離れてハンディーさんの元へと戻ればハンディーさんは何かを察したように眉を寄せて笑った。
場所を変えるか、その言葉に私は頷いてハンディーさんの後をついていった。
ラッセルさんは珍しく真剣な顔をしながらハンディーは誰よりもお嬢さんの事を気にかけてるよと言って行ってしまった。
その背中にありがとうと呟いてハンディーさんを追いかければ、昨日私とハンディーさんが最初に会った場所に着いた。


「隠すつもりはなかったんだよ。今現在どこまで気がついてるんだ?」

「勘、ですけど…この街は人が死ぬのは何時ものことで、何かがあるから死んでもどうともしない、これが私の考えです」


これならあの時のハンディーさんの言葉と冷静さや、街の住人達の当たり前のような視線も納得できる。
言い終えれば、ハンディーさんは驚いたかのように目を見開いた。


「鋭いな。ほとんど正解だよ。この街はなんでか人がよく死ぬんだ」

「まだ何かあるんですよね?」

「あぁ、死んでも次の日には自分家のベッドに寝てるんだ」

「生き返るってことですか…?」


そういうことだな、と頷くハンディーさんに小さく息を吐いてお礼を言えばなぜかまた驚いた顔をされた。
怖くないのか?そう言ったハンディーさんにあぁ、この人はこの街が大好きなんだなとわかった。
怖くないと言えば嘘になる。
はっきり言って信じられないし、さっきのを見てハッキリ怖くないとは言えない。
ハンディーさんはきっと、この街を嫌って欲しくなかったんだ。
あの死ぬ前の子供達の顔は本当に楽しそうで、幸せそうだった。
だったらいいんじゃないかと思ってしまう。


「ハンディーさんは怖いですか?」

「え?いや、もう慣れたし…」

「じゃあ私も早く慣れることにします」


そう言って笑えばハンディーさんは嬉しそうに笑ったと同時に、何かを呟いたが風の音で聞き取れなかった。
何か言いましたか?と聞いたが、いや、なんでもないと返ってきて少し首を傾げた。



「お前ならあいつらを変えられるかもな」



(121110)ちなみに子供達とはあの三人です。