目を開くと知らない風景が広がっていた。

あれ、どこだここ。
寝起きだからか働かない頭を必死に動かしてとりあえず近くに馬鹿でかい木があるのに気がついた。


「ハッピーツリー…?」


木の名前だろうか、木の幹に付けられた板に書かれている言葉を読み上げてみた。
これからどうしようかと悩んでいればなんとなく触っていた板が取れてしまって慌てて付け直そうとして気がついた。
小さく急いで書いたような文字が板の後ろに書かれていた。
目を凝らしてよく見てみて顔から一気に血の気が引いていくのがわかった。

“たすけて”


「おい、お前」

「ぎゃあああ!!」


いきなり聞こえた声に思わず悲鳴をあげて振り向けば、驚いた顔をするヘルメットを首にかけた男の人と目が合った。
心臓が止まるかと思った。


「わ、悪いな…驚かせるつもりはなかったんだ」

「い、いえ…私も叫んだりしてすみませんでした…」


申し訳なさそうな顔をしながら謝ってきた男の人に私も慌てて謝れば、男の人はお互い様ってことで!と爽やかに笑った。
い、イケメン…!
謎の感動をしつつ笑みを浮かべていると男の人がところで、と首を傾げた。


「お前見ない顔だけど新入りか?」

「え?あ、あの…その」

「まあとりあえず来いよ。案内するから」


いきなりでよくわからないままとりあえず着いていくことになり、握りしめていた板を付け直してから慌てて追いかけた。
そこであることに気づいて足を止めると、男の人も不思議そうに足を止めた。
この人、腕が無い。

両腕が二の腕あたりから切断されていて包帯が巻かれているのだ。
私の視線に気づいた男の人があぁ、と苦笑いした。
なんだか申し訳なくなってすみませんと謝ればいいよ別にと笑ってくれた。
やはりイケメンだった。


「そういえば名前言ってなかったな、ハンディーだ。よろしくな」

「あ、私はなまえです。こちらこそ」


ハンディーさんか。
頭にハンディーさんと名前をインプットさせて、ハンディーさんの話に耳を傾ける。
ハンディーさん曰く、私のように気がついたら此処に居たというのはよくある話らしく、出口や入り口などもわからないらしい。
時々通りすぎるお店らしき建物の紹介もしてくれて、会話に困ることはなかった。


「急にで驚いてるだろうけど悪い所では無いからゆっくりしていけよ。何かあったら相談乗るし」

「ありがとうございます…ほんと何から何まで」

「気にするなよ。じゃあ俺行くからな」


手を振ってもう一度ありがとうございました!と言い、案内されたばかりの私の家となる一軒屋の扉を開けた。
だから気づかなかった。
ハンディーさんがずっと此方を見ていたことに、そして呟いた言葉にも。



「お前だけは変わらないでくれよ」







家の中は普通に綺麗で、必要な家具も全て揃っていた。
確かハンディーさんが前の住人が置いていった物と言っていた。
気に入らなければ変えていいと言っていたが、もう充分すぎるため早速買った服をタンスに、食材を冷蔵庫へとしまった。
ちなみに全てハンディーさんが買ってくれたものである。
流石に申し訳ないと思ったのだが、じゃあ金あるのか?と言われてしまい、有り難く買って頂きました。
バイトとか探していつか返さなければ…
なんて考えながらとりあえずベッドに潜り込んだ。
今日はとりあえずハンディーさんは爽やかなイケメンだったという収穫に目を瞑って眠りについた。



(121109)ハンディーさんイケメン。