「バイト?」


ハンディーさんにペンチを渡しながら頷く。
現在、ハンディーさんの仕事を手伝い中である。

ここの生活にもだいぶ慣れたものだ。
まだまだ会っていない住人達もいるが、それでも私は充実した毎日を送っていると思う。
だがしかし私はやらなければいけない事が一つだけある。
それは前々から考えていたバイトをするという事だ。
未だにバイトもせずに食事はハンディーさんやラッセルさんにご馳走になってばかりで、
時々こうしてハンディーさんの仕事を手伝う度にお礼としてお金を貰うが、正直受け取りずらい。
最初の方は断っていたのだが、服の替えやら生活用品やらで貰わずにはいられなかったのだ。


「いつまでもハンディーさんにお世話になってちゃいけませんから」

「別に俺は構わないんだけどな。お前一人くらい養えるし」

「やだイケメン」


ときめいちゃった、と真顔で自分の両頬に手を当てるとハンディーさんに冷たい目で見られてしまった。
酷い。


「ねー!」

「あら、カブくん。今こっちに来ちゃ危ないよ。ほらほらお父さんの所へ、森へお帰り」

「ナウ●カか」


よたよたと歩きながらやって来たカブくんの頭を撫でながらそう言えば、すかさずハンディーさんからツッコミが入る。

ハンディーさんナ●シカ知ってたんですね。
金曜●ードショーで見た。

そんなやり取りをしつつもハンディーさんはテキパキと仕事を終わらせ、
私はそこら辺に散らばってるハンディーさんの仕事道具を拾って片付ける。
その間カブくんはしゃがんで片付けていた私の背中によじ登って無邪気に笑っていた。


「終わったのかい?」


扉が開く音と同時に聞こえた声にカブくんを支えながら振り向くと、両手にマグカップを持って優しい笑みを浮かべたポップさんが居た。
コーヒーのいい香りが私の鼻を刺激し、お腹が空腹を訴えた。
何だか恥ずかしくて苦笑いしながら謝ると、ポップさんはニコニコと笑いながらマグカップを差し出してくれて、有難く受け取る。


「少しお茶でもしていきなさい。せっかくだ、茶菓子も出そう」


もう一個のマグカップはテーブルの上に置き、ハンディーさんに声をかけたポップさんはそう言って扉を開け微笑んだ。


ポップさんと知り合ったのはつい最近だ。
勿論、息子のカブくんとも。
何でもこの間家にトラックが突っ込んで来ただかで半壊した家の修理をハンディーさんに頼み、手伝いに来た際に知り合ったのだ。
まだ全員には会っていないものの、ポップさんの話では、あまり広くもないこの街には私の噂は広がっていて知っていただとか。
何それ怖い、だなんて思いつつそれからいつの間にかカブくんも懐いてくれたようで、また一つ私はここの暮らしに楽しさを抱いた。


「それにしてもハンディーも助かってるんじゃないか?なまえちゃんが手伝ってくれて」

「そうだといいんですけどねー。私としてはいつもお世話になっているんでもっと手伝ったりしたいんですが…」


コーヒーのいい香りが広がる部屋の中で、積み木で遊ぶカブくんを見ながらポップさんはそう言い微笑む。
お茶菓子のケーキを口に入れれば、口全体にケーキの甘さが広がり思わず頬が緩んだ。


「そういえばお前、さっきの話だけど」


ケーキの美味しさを官能していれば、片付けが終わったのだろう、ハンディーさんが私の隣に腰掛けた。
さっきの話、と言われ一瞬なんの話だと首を傾げたが、直ぐに先程ハンディーさんに話したバイトの話だと理解する。


「何かいいバイトありますかね?あまり出掛けたりしないのでまだ何のお店があるのかさえ把握してないんですよ」

「おや、仕事を探しているのか」


私の言葉を聞いたポップさんはそう言いパイプを口に咥えた。
口の中の甘みをコーヒーで胃に流し込み頷けば、ポップさんは「ハンディーの助手じゃ駄目なのかい?」と首を傾げた。


「ハンディーさんに今までお世話になった分働いて返したいんですよ。それに自分の生活費ぐらい自分で稼ぎたいです」

「別に俺は構わないんだけどな。お前の好きにすればいいよ」


ありがとうございます、と空になったコーヒーカップを机に置く。
そして残り一口程度だったケーキを口の中に入れて、立ち上がればポップさんが首を傾げた。


「もう帰ってしまうのかい?」

「行動は早い方がいいですからね。コンビニ行って求人誌でも見てこようかと」


立ち上がった私の足に抱きついて来たカブくんの頭を撫で、「それじゃあご馳走様でした」とポップさんに頭を下げるとポップさんは「ああ、またいつでもおいで」と微笑みながら立ち上がりカブくんを抱き上げた。
玄関のドアノブに手を掛けて「おじゃましましたー」と外へ出れば、
「なまえ」と後ろから名前を呼ばれる。
振り返ってみれば、直したばかりの窓から顔を出しているハンディーさんが居た。


「ランピーの所に行ってみろよ、あいつなら力になってくれると思うぞ」

「…ランピーさんが?」


へらへらと笑うランピーさんを頭に浮かべながらそう聞けば、ハンディーさんは軽く笑った後「行けばわかる」と言い、顔を引っ込ませてしまった。

その言葉の意味がわからず、首を傾げつつも足を進める事にした。




…そういえば。


「(ランピーさんがどこにいるか知らないんだけど…)」
(141018)