どうしてこんなことになってしまったのだろう。
どこで間違ってしまったのだろう。
鉄の臭いが私の鼻を刺激し、目の前に広がる赤と塊に立っていられず構わずそこに座り込み胃の中のものを全て吐き出した。
びちゃり、と視界に赤く汚れた誰かの足が入り込み、私はゆっくり顔を上げた。


「        」


選択を間違えてしまったのだろうか。
いつから?どこで?
そもそも選択なんて何処にあったのだ。
そんなの最初から――――


抗えない結末をただ受け入れる事しか出来ないと知っている私は迫り来る最後を避けようとはしなかった。
悲しみに歪んでしまった君を、次こそは――――







「ごめんなさい」


カドルスくんがそう言って頭を下げる。
目を見開いてカドルスくんを見るトゥーシーくんの目もやっぱり赤い。
微かに震えているカドルスくんは頭を下げたままもう一度だけ「ごめんなさい」と呟いてぽたりと滴が地面に落ちた。


「僕、最低なんだ。トゥーシーがどんどん僕から離れて行っちゃうんじゃないかなって、それが嫌で、だからあんな嘘ついたの」

「カ、ドルス」

「他の友達なんてどうだってよかった。ただトゥーシーさえいてくれればいいって思ってたの。こんなのただトゥーシーに依存してるだけだってこともわかってるんだよ。だけど僕は、トゥーシーとまた仲良くしたいよ…っ」


「そ…んなの…俺だって…っ」


トゥーシーくんの目にも涙が溜まり、二人はお互いに目を合わせた瞬間涙を溢しながら抱き合った。
わんわんと泣きながら謝るカドルスくんに嬉しそうに笑いながら泣くトゥーシーくんを見てなんだかもらい泣きしそうになり、ぐっと堪える。
何はともあれ仲直り出来たようでよかった。
そう思いながら頬を緩ませていると、隣から呆れた様な声が聞こえた。


「何でアンタが泣きそうな顔してんのよ」

「や、だって仲直り出来て良かったなーって」


私がそう言うとギグルスちゃんは「意外に涙脆いのね」と物珍しげに此方を見てきた。
涙脆いのかはわからないが、感動する小説や漫画などでは普通に泣くよ。私は。
そう言えばギグルスちゃんは私も好きな作家さんのBL小説読んで泣いた事あるわと語り出したので慌てて話題を逸らすことにしよう。


「で、でも案外あっさり仲直りしちゃったよね」

「……そうね」


会 話 終 了。

実はと言うと、ギグルスちゃんとちゃんと話した事はないのだ。
ギグルスちゃんの家で一度二人だけで話した事はあるが、あれはカドルスくんの話だったし、昨日もラッセルさんの家で話した時はギグルスちゃんから一方的に語っていただけだ。
つまりそう考えるとまともな会話はしていないのだが、どうも今日のギグルスちゃんはなんだか様子がおかしいようにも見える。
カドルスくんとトゥーシーくんを眺めている姿はまるで仲間外れにされた子供の様なそんな感じ。
なんだか放っておけず、何か話し掛けなければと口を開いた時だった。


「私も、―んな風に、仲直り――る――ら」


ギグルスちゃんは何かを言ったけれど、その声は小さくあまりよく聞き取れなかった。
もう一度聞き直そうと再び口を開くも、ギグルスちゃんは顔を上げて此方を見ると「じゃあ私これからデートだから」と背を向けてしまう。


「あ、うん」


去って行くギグルスちゃんを見届けて、そろそろ帰ろうかと考えながらもうすっかり泣き止んで笑い合ってる二人に目を移せば、カドルスくんと目が合った。
途端、カドルスくんの顔から笑みが無くなり、代わりに少し気まずそうな表情を浮かべ出す。
え、なになに。
それに気付いたトゥーシーくんがくすりと笑いながらカドルスくんの背中を押し出し、トゥーシーくんに押された事でカドルスくんは私の前に立ち何かを言いたそうに目線を逸らしている。
その仕草に首を傾げていれば、トゥーシーくんが「――カドルス」とカドルスくんに何かを急かすよう言い、
カドルスくんは意を決した様に顔を上げ、頬を赤らめて口を開いた。


「ぁ…なまえ」

「は、はい」

「………―――とう」

「え?」

「〜〜だから!ありがとうって言ってんの!」


ぽかん、と目を瞬きしながら私より幾らか身長の低いカドルスくんを見下ろす。
相変わらず目を逸らしているカドルスくんの顔は赤く染まっていて、可愛くて不覚にもときめいてしまった。
デレなの?デレなの?


「な、何か言ってよ」

「え、あ、うん。どういたしまして…?」

「何で疑問系なのさ」

「なんとなく?」


そう言えばカドルスくんはくすっと笑みを漏らして私も釣られるように笑いが込み上げてきて二人して笑ってしまった。
笑いが止まった頃にはカドルスくんの顔にはやっぱり笑顔が浮かんでいるけど、それは前とは違う、心からの笑顔だろう。


「さて、そろそろお昼だしラッセルさんの家にでも行って何か食べさせてもらおうか」


そう言えばカドルスくんとトゥーシーくんは顔を見合わせてから頷き「じゃあラッセルの家まで競争ね!」と言うカドルスくんの声と同時に駆け出した。
え、と横をすり抜けていくカドルスくんを慌てて追いかけようとしていると、トゥーシーくんが「ありがとな」と小さく呟いてからカドルスくんの後に続いて行った。
それを聞いて数秒固まったが直ぐに微笑んで二人の後を追いかけた。


「そういえばなまえ、今日の朝顔色悪かったけどどうしたの?」

「――あぁ、ちょっと変な夢見ちゃって」


苦笑いを浮かべて空を見上げる。


へえ、どんな夢?
――…あはは、それがあんまり覚えてないんだ。
ふーん…?

果たして私は上手く笑えていただろうか。

(140112)
カドルストゥーシー編はこれにて終了になります。
少し長くなった上にフラグを立たせたまま新しい物語に進んで行きます。