扉を開けた状態のまま私は思わず苦笑いしてしまう。 「(なんていう修羅場…)」 私の後ろでハンディーさんがどういう状況だ、これ…と呟いているのに激しく同意したい。 これは割り込んでいい空気なのだろうか。 ふむ、と悩んでいるとぼんやりと退屈そうに辺りを見回したランピーさんとふいに目が合ってしまった。 あっ、と声を挙げたランピーさんに皆の視線は此方を向き、でもトゥーシーくんは背中を向けたままだった。 「こんばんは…」 「なまえちゃんだー」 気まずい雰囲気に苦笑いを浮かべたままぼそりとそう呟けば、ランピーさんがにこにこと笑いながら此方に来た。 ランピーさんは通常運転だな。 正面から抱き着いてこようとするランピーさんを回避しつつ(私が避けた代わりに後ろにいたハンディーさんに被害がいった) 私は此方を見て更に顔を青ざめるカドルスくんに目をやってから、背中を向けたままのトゥーシーくんに近付いた。 後ろでハンディーさんの叫び声が聞こえたけど、…ごめん、後でジュース奢ります。 「トゥーシーくん」 トゥーシーくんの肩にそっと手を乗せれば、びくりと震えた。 だが、やはり顔は此方には向けてくれない。 状況はなんとなく予想はついているのだが、トゥーシーくんは喋れそうにないな。 となるとギグルスちゃんかカドルスくん、か。 正直まだカドルスくんの事は苦手なんだけど、ここまで来てしまったのだし仕方ない。 「ギグルスちゃん、状況説明頼める?」 「え、あ…私はあまり詳しくは…ランピー達とかくれんぼをしてて、私達はもう見つかってたからトゥーシーがカドルスを探しに行って、そしたら…」 ふんふん。なるほど。 ギグルスちゃんにお礼を言ってからさて、とカドルスくんに目を移せば大きな目と目が合い、 カドルスくんはびくりと体を震わせた。 「いつから聞いてたの?カドルスくん」 「………………」 何も答えない。 ハンディーさんと話している時視界の端に見つけた黄色はカドルスくんだったのか。 大方私の推測では私とハンディーさんの話をカドルスくんは聞いていて、 その後カドルスくんを探しにやって来たトゥーシーくんも聞いてしまった、というところだろうか。 …にしてもどうしたものか。 トゥーシーくんはこんな状態だし、カドルスくんは俯いてしまっているし、 二人とも話せる状態じゃない、か―――― 「―――んで……なんでだよっ…」 うんうん唸っていると、トゥーシーくんがゆっくり顔を上げた。 鋭くカドルスくんを睨むその瞳には―――。 「トゥーシーくん……」 泣いていた。 トゥーシーくんはカドルスくんを睨みつけながら、ただ、泣いていた。 その姿にカドルスくんは目を見開いて、呆然としている。 「なんで……!っ…楽しんでたのかよ、俺を騙して…!馬鹿にしてたのかよ!!」 「!ちがっ「俺は!…ずっと、お前のこと信じてたのに…!なのに…っ!くそっ!」 「ぁ、トゥーシーくん!」 涙を溢しながら此方に背を向け去ってしまうトゥーシーくんに手を伸ばすが、手は空を切りトゥーシーくんの背中は遠ざかってしまった。 追いかけまいか悩むが、私はカドルスに目を向けた。 カドルスくんは、私の視線に気付いた後眉を寄せて顔を俯かせた。 その泣きそうな顔に思わず笑みが漏れてしまう。 笑いだした私にカドルスくんは目だけを上げると、私を睨んだ。 「な、にがおかしいの」 「え?あ、いや…」 笑った顔以外も出来るんだなあって。 その顔が嫌悪から驚愕に変わり、私はますます笑みが漏れた。 カドルスくんはいつも笑っていた。 出会った時だって笑っていたし、手を握られた時だって焦ってはいたが顔は確かに笑っていた。 私はそれがなんだか怖くて、苦手だったのだ。 嘘臭い笑顔が、そんな顔をするカドルスくんが苦手だった。 だから今、こうして泣きそうにしているカドルスくんに、私はなんだか思ってしまったのだ。 「カドルスくん」 もう包帯がすっかり取れた手をゆっくりと下にあるカドルスくんの頭に置けば、カドルスくんは驚いた様に私を見上げた。 その目は不安や悲しみが入り交じり、酷く濁っているように見えた。 「私と、お友達になってくれないかな」 そう言った私に、カドルスくんは涙を一粒流した。 (131013) |