「カドルス!一緒に行こうぜ!」


僕の大切な友達。
大好きで、大好きで、大好きで。
その笑顔が、僕に差し出してくれる手が、大好きで、大好きで、大好きで。


「すごいよねー!」


皆に好かれる彼が、大好きで、大好きで、大好きで、




―――――大嫌いで。







「…え?」


ハンディーさんの言葉に目を見開く。
もしかして、知らないのだろうか。そんなまさか。


「え、カドルスくんのご両親がいなくなったって…」

「カドルスの両親が…?そんな話聞いたことないぞ…?」


聞いたことがない?
じゃあトゥーシーくんが言ったことは嘘…?
いやでも、あの表情からして嘘だとは思えない。
じゃあやっぱりハンディーさんが知らないだけ…?
眉を寄せて不思議そうにしてるハンディーさんにトゥーシーくんの真剣な、でもどこか悲しそうな顔が浮かぶ。


「でも、トゥーシーくんが」

「トゥーシーが?…あー、あのな、そもそも



カドルスには両親はいない」



「え…?」


いない…?
まてまてまてまて、ますますわからなくなってきたぞ。
いないとはどういうことだ。
困惑していてまじで?と心の中で呟いているとそれが伝わったのかハンディーさんが続けて口を開いた。


「本当だ。俺はカドルスがここに来た頃から知ってるが両親なんて見たことも聞いたこともない。
きっとここに来る前には両親は居たんだろうがカドルスからもここには“一人で来た”って聞いたからな」

「じゃあトゥーシーくんが言ってたのは一体、」

「……トゥーシーになんて聞いたんだ?」

「えっと…カドルスくんがああなったのはご両親がいなくなったからで、それだけじゃないかもしれないけどトゥーシーくんはそれしか知らないって…」


そうだ、トゥーシーくんはそう言った。
確かにそう言ったのだ。
あれが、トゥーシーくんが嘘を言うとは思えない。
でもハンディーさんがそう言うのならそうかもしれないし、ああ、もうわけわかんなくなってきた。


「あの、トゥーシーくんとカドルスくんは幼馴染みって聞いたんですけど」

「あぁ、あいつらここに来たのが同じ頃でな。カドルスのがちょっと早かったが、年も同じだったからかあっという間に仲良くなっちまったぞ」


同じ頃…。
そこまで聞いて私の頭の中でぐるぐると回っていた様々な可能性が少しずつ姿を消し、一つだけが残った。
もしや、もしかすると。


「カドルスくんが、トゥーシーくんを騙してる…?」

そうぽつりと呟くとハンディーさんは目を見開いて、どういうことだ、と言った。
カドルスくんはトゥーシーくんと同じ頃に来た。
でもカドルスくんの方がちょっと早かった。
ギグルスちゃんは恐らく何も知らないのだろう。
何も言ってなかったし。
すう、と小さく息を吸いゆっくり吐く。
ハンディーさんを見れば困惑した目が此方を見ていた。
よし。


「ハンディーさん。カドルスくんは恐らく、トゥーシーくんを騙しています」

「だから、どういう、」

「カドルスくんが一人で来たという事はトゥーシーくんは知ってるんでしょうか?」

「え、あ……仲が良いし、知ってるんじゃ…」

「じゃあハンディーさんはトゥーシーくんにカドルスくんは一人で来たって言ってないんですね?他の人も?」

「わざわざ言うふらすことでもないしな、言ってないぞ」


ああ、やっぱり。


「カドルスくんがトゥーシーくんにその事を話してなかったら?
カドルスくんが自分には両親がいて、ある日両親がいなくなったんだ、となにもしらないトゥーシーくんに言ったら?
トゥーシーくんは信じたんですよ。

――カドルスくんの嘘を」


まるでどこかの探偵漫画の主人公になった気分のように言葉を続ける。


「さっきハンディーさん言いましたね、別に言いふらすことじゃないしな、って。トゥーシーくんも同じでしょう。言いふらすことじゃない。
カドルスくんショック受けてたみたいだったそうですからもうあまり思い出させないためにも口には出さなかったんでしょう。
それかカドルスくんに、誰にも言わないでとか口止めされたか」


きっと私にその事を言ったのは私に友人を誤解してほしくなかったからだろう。
カドルスくんがなぜトゥーシーくんに嘘をついたかはわからないが、カドルスくんがああなったのはきっと他に理由があるんだろう。
その理由が何かはわからないが、とりあえずトゥーシーくんにこの事を伝えるべきだろうか。
それかカドルスくんに真相を聞きに行くか。
……いや、私がそこまでする必要はないか。
部外者だし、ね。
話している時に視界の端に黄色い何かが写った気がしたが気のせいか、と小さく息を吐いた。


「トゥーシーは黙ってて!!!!!」


……ああ、どうやらそうではなかったみたいだ。

外から聞こえた怒鳴り声にハンディーさんと顔を見合わせて椅子から立ち上がり玄関の扉を開いた。
その向こうには、顔を真っ青にして怒鳴るカドルスくんとぼんやりと突っ立ってるランピーさん、その後ろには心配そうに二人を見るギグルスちゃん、
そして此方からは表情は見えないが微かに手が震えているトゥーシーくんがそこに立っていた。


(130910)