私は人を殺しました。ここにその記録を綴ろうと思う。
【Yの手記】
一人目は喫茶店を営む若い男でした。とても勤勉な好青年だった事を覚えています。恋人と出掛けている姿をたまに見かけましたが恋人の方は何か事情があるのでしょうか、声を出す事ができない様子でした。それでも彼らは会話を楽しみとても幸せそうでした。
お店に通い詰め常連となった私はある日相談したい事があると話を持ちかけました。すると彼は閉店まで待っていてくれたらこのお店で話を聞く、と言いました。本当に優しい人でした。
ガツン、と灰皿で一度殴ると彼は頭から血を流して床に伏せました。どうして、どうしてと繰り返す彼を何度も何度も何度も殴り続けました。頭と手と床が真っ赤になった頃には彼はもう息をしていませんでした。それからキッチンで紅茶を淹れて飲みました。やはり紅茶は彼が淹れたものが一番美味しいとわかりました。それが動機です。
二人目はとあるお屋敷に住む少年でした。少年と書きましたが彼は性別などどうでもよくなる程に美しい容姿をしていました。少し体の弱い彼のお世話をする係として私はそのお屋敷で働いておりました。ご両親はいらっしゃらない様でしたが二人のお兄さんが彼をとても大切に育てていました。愛情に満ちた幸せな家庭だと、私にはそう見えました。
入浴のお手伝いも私の仕事です。ある晩湯船にたっぷりと張ったお湯に彼の頭を押し込んで、そのまま手を離しませんでした。彼の手が私の手を血が滲む程に引っ掻きました。それでも手を離さないでいるとふいに彼の体がふわっと軽くなりました。ふわふわのバスタオルに彼を寝かせて、そっとその目を閉じました。てっぺんからつま先まで真っ白になった彼は世界の何よりも美しく清いものだとわかりました。それが動機です。
三人目は私の恋人です。少し歳下の一途でとても優しい人でした。×××君と彼に名前を呼ばれる事が私はとても好きでした。運命の人だと、本気でそう思っていました。
その日同じベッドで眠る彼の首を絞めました。寝ている間に殺そうと思っていましたが途中で彼は目を覚ましてしまいました。一瞬驚いた顔をした後彼は抵抗する事もなく此方を見つめ、声にならない声で私に向かって大丈夫だよ。と言いました。その後すぐに彼は目を閉じそのまま二度と開けませんでした。
男が天井からぶら下がる縄に向かって階段を登っている。てっぺんまで辿り着いた男はゆっくりとその首に縄をかけた。
「私は彼を愛していたことがわかりました。」
「それが動機です。」
かたん。床が開いた。男は地獄に堕ちた。
「ねーねー、この間死刑になった人の日記の内容聞いた?あんなのテレビで放送してもいいのかなあ?」
「お店ででかい声でそういう話をするな。まあ、理解はできない思考だったけど、」
「けど?」
「なんか他人だとは思えない人間だったな。」
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