*薄紅の宴
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*ネタがネタなので色々と注意。




 会議続きの週を終え、ようやく明日は休みの日。少しは身も心も休められるだろうか。そんなことを考えながら帰宅した舞白に告げられたのは千羽陽からの呼び出し。ここ数日は帰りも遅く、夕飯も食べずに布団に入ることも多かったから、千羽陽の所へ行くのは久しぶりだった。夕飯の支度も離宮の方に済ませてあると告げられ、軽くシャワーを浴びて相手先に合わせて着ていったスーツからいつもの和服へと身支度を調えて離宮へと向かう。
 母屋から離宮へ向かう途中、椿の部屋に明かりが灯っているのが見え、唇の端に笑みを浮かべる。椿にもしばらく会えていないから明日辺り会いに行くのも良いかもしれない。満開の桜の横を通り抜け、静かな離宮へ入る。いつも通りの道順で千羽陽の部屋へ向かい、襖の前で声をかける。
「兄さん。ただいま戻りました」
「入れ」
中からの簡潔な返事を待ってそっと襖を開けて中へ入る。部屋の中には寝そべって酒を煽る千羽陽の姿。
「遅くなってすみません。仕事の方が長引いてしまって」
「別に構わない。それよりもこっちへ来い」
緩慢な動きで千羽陽が立ち上がり、歩き出す。慌ててその後を追う。
 人気のない廊下を進み、着いたのは庭に面した部屋の1つ。千羽陽に続いて中へ入れば、大きな窓から庭の桜が見える。庭の桜の木のすぐ近くにあるこの部屋は、満開の桜が大きな窓の景色を独占している。丁度、その桜の木に隠されて母屋からはこの部屋が見えず、しかし、この部屋から母屋は見える。一時期、千羽陽の母が気に入って使っていたという部屋だったはずだ。
「・・・桜が綺麗ですね」
思わず感想を口にすれば、千羽陽の機嫌の良さそうな笑い声がする。
「舞白」
名前を呼ばれたので、部屋の奥に腰を下ろした千羽陽の傍へ寄れば、何やら袋を渡される。
「これは・・・?」
「これに着替えろ」
「着替え?・・・あぁ、服ですか?」
「そんなもんだ。今更、恥ずかしがる必要もないだろう。そこで着替えてしまえ」
「・・・分かりました」
またいつもの気まぐれだろうか。そう思いながら、さすがにすぐ傍で脱ぐのは憚られたので、部屋の隅の方で着物を脱ぐ。最近では、仕事など外出する時には下着を身につけるようになったが、家では慣れてしまったこともあり、下着は身につけない。つまり、袴を脱いでしまえば、その身を隠すものはなくなる。風邪を引くのも馬鹿らしいのでさっさと袋の中身を出し、身につけるために広げてみて、舞白はそのまま固まった。
「どうした?早く着ないと風邪を引くぞ」
思わず、『どの口が』と返しそうになったのは仕方のないことだろう。何せ、身につけたところでこの洋服・・・女性用の下着と思しきそれが防寒の役目など果たすことはないのだから。
 袋の中身は全部で3つ。薄い桜色をした腰までかかる丈のキャミソール。前はともかく後ろはほぼ紐であると言えるくらいに面積の少ないそれはおそらくショーツなのだろう。こちらはもう少しはっきりとした淡い紅桜色をしている。そして、最後の1つはいわゆるガーターベルトといわれるもの。こちらもショーツと同じ色をしている。そのどれもが上質な生地でできていることは触れば舞白には分かったし、派手にならないようにあしらわれているレースもさり気なく桜の模様になっていたりと繊細なものである。
 しかしだ。これは少なくとも、成人男性である舞白が着るようなものでは、ない。
「兄さん。これは何ですか?」
舞白は自分を落ち着かせようと、努めて冷静な声で問う。
「下着だな。お前用の」
「僕の見間違いでなければ、これは女性用のものだと思うんですが」
「そうだな。しかし、お前なら似合うだろうし、サイズも問題ないはずだ」
「一応、これでも、成人した男なんですけれども」
せめてもの抵抗と言葉を重ねるが、何を今更言っているのだという風に返してくる千羽陽に、段々と自分の主張がおかしいのだろうかとさえ思い始める。
「そんなことはもちろん知っている」
面倒くさそうにため息を一つついて千羽陽が近くへやってくる。そして、舞白の手からそれを奪い取ると何のためらいもなく着せていく。
「やはり、似合うな」
満足そうにそう言う千羽陽に対して、舞白はいっそ裸の方が恥ずかしくないのではないかと思うくらいの羞恥に耐えていた。
「あぁ、仕上げをしないとな」
呟いて千羽陽はひょいと舞白の体を持ち上げる。そのまま連れていかれたのは窓の傍に敷かれたラグマットの上。肌に触る感触がくすぐったくて、舞白は身を捩る。そんな舞白に構うことなく、千羽陽の手は舞白の足下へと伸びる。まだ袋の中に残っていたらしいレース仕立てのガーターリングが足に通され、太ももまで持ち上げられる。そこにガターベルトのクリップが止められ、太ももが飾り付けられる。
 そっと下ろした視線の先にある自分の格好を改めて見てしまった舞白は、その羞恥から頬を赤く染め、ラグマットに顔を埋める。いくら千羽陽の要望で、いくらここには舞白と千羽陽しかいないとはいえど、これは恥ずかしすぎる。
「舞白。隠すな」
しかし、千羽陽がそれを許すはずもなく、体が持ち上げられ、その場に座り直すような形で下ろされる。正座をしようとした足はWの形に崩されて、とんび座りのような座り方になる。そして、少しでも体を隠そうとした両手は背中に回され、袋の口を閉じるために使われていたリボンでまとめられてしまう。
「そのまま動くなよ。下手に取ろうとすると手首をいためるかもしれん」
そう言い置いて、千羽陽は舞白から少し離れた場所に腰を下ろす。おそらくその場所からなら夜桜を背景にした舞白の姿が見えていることだろう。
「やはり、その色で正解だったな。桜に合わせたデザインだと言っていたが、確かに合う。普段なら、もっと淡い色を選ぶところだが、白い肌によく映える」
満足そうに桜と舞白を肴に酒を呷る千羽陽を直接見る勇気などなく、舞白はせめてもの抵抗と視線を斜め下へ落とす。
動くなと言われてしまった以上、体を隠すことも顔を背けることも叶わず、ただひたすらに舞白はこの時間が早く過ぎることを祈った。







(ちはやさんの体調が少しでも良くなりますように・・・)

 

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