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弟はまぶしい存在だ。すべての注目を集め、すべての愛情を集め、1つの身には余りあるであろうソレに返すために必死で愛嬌を振りまくのだ。ソレをまぶしいと思うことはあっても、決してソレになりたいと思ったことはない。だって、自分にソレが耐えられると思いはしなかったから。
その弟が自分の事を自分でやろうとし、あまつさえ兄の為に料理を作りたいと言った時、「あぁついに来たのか」とそう思った。元より誰よりも“自分”という存在を考える子だ。与えられた物を素直に受け入れ、相応の物を返すことができる弟にとっては、むしろ、遅いくらいの変化だったのだろう。
自分が欲しているものが「求められること」だとしたら、弟のソレは「認められること」なのだと思う。きっと、認められる為、自分で自分を認める為、成長することが必要だった。ただ、それだけの話なのだろう。それならば、これは止めるべきではない。止めてしまったらきっと、弟は、・・・彼は、また蕾に戻ってしまうから。
言葉を1つ1吐き出す度、音を1つ1つ口にする度、心が軋むのが分かる。体の震えもひどい。これはきっとやってはいけないことだ。言ってはいけないことだ。息が詰まる。喉が絞まる。しかし、その分岐点を選んでしまった以上、その選択肢に気づいてしまった以上、進まなければいけないのだ。落ちそうになる意識を半ば無理矢理に引き寄せる。
これは、“僕”が言わなくてはいけない。
「貴方は間違っている」
そう。“僕”が間違っていたようにーーー。
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