小説 | ナノ
「あぁ!」
手汗で滑ったボールが、彼に届かず仕舞いになった。
しっかりしろ。って俺。
純色の緑。
そりゃあもう、絶賛してしまうほどの綺麗な瞳が、俺を見てるって言うのに、
皆さん、聞いてください。
俺の自慢話を、
真ちゃん、真ちゃん、
真ちゃんは相変わらず仏頂面。
なかなかチームに馴染めてない。
もう入部して一ヶ月も経つのにな、
でも最近、俺の声には敏感になってるみたい。
にししって心の中で意地悪く笑った。
だって真ちゃん、ちょっと期待してる。
練習中だって、授業中だって、秀才な真ちゃんは重宝されるし特別視される。
慣れてる体を装うんだ。
でも本当は歯痒いんだ。
真ちゃん真ちゃん、
「俺、真ちゃんのこと大好きースキスキ」
「気持ち悪いことを言うな」
精一杯のハートを飛ばせば跳ね返される勢いで罵声。
やだな、もう、照れちゃって。
誠凜に負けた時に泣いた真ちゃんを見た時、
リベンジするんだって張り切ってる真ちゃんを見た時、
いつも一人で、ひたすら3Pを打ってる時、
過度な練習に腕を痛めてしまった時、
気づいてないけど、みんな真ちゃんを見ていた。
だから、真ちゃんは認められてる。
それに気付いてない真ちゃんはかなりの鈍感さんだけども、
「真ちゃんスキヨー」
「煩い。棒読みで言うな。」
「え?じゃあ感情込めようか…?
し、真太郎さん…っ実は…」
「気持ち悪いのだよ」
随分と酷いもんだ。
真ちゃんはちょっと茶化しただけで直ぐに気持ち悪いとか言うんだから。
「減らず口め」
「どっちがなのだよ。」
今日もアイデンティティを崩さない。
そんな真っ直ぐな背中を視界いっぱいに満たしてる。
真ちゃんは今日も真ちゃんで、
俺は今日も相変わらず俺で、
きっと宮地さんも、大坪さんも、木村さんも、みんな変わらない。
今日も俺は学校に行く。
今日も真ちゃんの隣りを歩く。
今日も鈍感な真ちゃんの代わりをする
今日も真ちゃんは俺に優しい。
今日も俺は真ちゃんを茶化す
真ちゃんは怒る。
俺は逃げる。
追いかけてきた真ちゃんと、逃げてる俺は、2人揃って先生に叱られて、
何と無く授業受けて、
真剣にバスケして、
いっつも同じサイクルで動く。
まるで定られたように、
まるで運命のように、
同じレールを、続く限り進み続ける。
いつか違えてしまうかもしれない、その日まで、
俺は、彼の隣りにいる。
その権利と、義務があって。
彼も、俺の隣りを歩く。
なんて普通で、突飛性に欠けてて、
なんて素敵な毎日だろうと、
俺は思うわけです。
130713
緑間を誇りに思って、そんな緑間の相棒でいる自分が誇りな、高尾の話し。
ちょっぴりシリーズ化したい、幸福論シリーズ。でも桃井ちゃんのときのように、上手く書けませんでした。残念。
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